塚立 すみれ学園

□その女ガサツにつき!(後編:パーティーナイト)
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沈黙が、二人しか居ない亮のロビーを支配し、外の夕闇も、夜の手をとって彼を地上に近い場所へと導いていた。
沈黙を破ったのはエンジン音だった。
オレンジと群青色のあいまいな境界線の空の前に、白いライトを灯してやってきたのは1台のバイク。
その乗り手は赤いヘルメットをしたままエンジンを切り、後ろにしがみついて身体を小さくしている少女に、ヘルメットを取れ、と指示していた。
「まったく、も〜」
先保の姿は夕闇が見せた幻だったのか?とばかりに飄々とその乗り手に向かう苺。
苺が目をそらしたことで、和央はハッと我に返れた。
あの目、あの沈黙は・・・。
和央は見せた事の無い苺の態度に圧倒されていたと気がついた。
「なんで、女子寮にバイクが入ってきてるんだ?」
縮こまった身体を解いた少女と乗り手は、同時にヘルメットを取る。
そこには見慣れた顔が二つ、玄関口のすぐ外にあった。
その2人を、いや1人を見て、和央の顔は緊張した面持ちにかわっていた。
「す、すみません先生」
という少女とは反対に、その男子は女子寮の掟と唱われる教師に向かって悪態をついた。
「別にいいだろ、こいつ足怪我してんだから、バイクの方が早いし楽だし」
「おい、バイクで送り迎えはいいよ、でもな女子寮の敷地内は『男子禁制』だ」
腰に手をあてて仁王立ちの苺の言葉も聞き流して、真琴はいきなり貴姫を肩にかつぎあげた。
「きゃーーーーーーーーーーー!」
ジタバタ、ジタバタと、身体を二つ折りにさせられ肩に担がれた貴姫は暴れて、顔を真っ赤に恥ずかしがって、拒否をしている。
「その運び方は無いんじゃない?時代劇でかどわかされる町娘みたいよ、あんまり色気がないじゃないの。
折角だからお姫様ダッコ、せめておんぶにしなさいよ」
ポカポカと抵抗されて背中を叩かれている誠は不満そうに口を尖らせた。
「こいつが、嫌だってんでね!」
「まったく・・・あとは和央が部屋まで運ぶから、あんたは帰りなさい、事情があるからここまでは侵入を許可しよう!でも、建物の中はダメよ!」
わかったよ、と言って真琴はロビーのソファーに貴姫をおろすと、そそくさと建物の外に出て行った。
しかし、彼は立ち去る様子がない。
「何してんのよ?」
「あ?」
「あ、じゃないわよ。他に何か?」
「支度したら、また連れてくから待ってんだよ、悪いか」
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