★〜club 双龍〜★

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 シャッターの閉まった店が並ぶ商店街に、政宗のヒールがコツコツと響き渡る。ドレスの上にロングコートを羽織っただけの足下からは、細い引き締まった足首が見える。仕事場で履いていたミュールのままで、かかとがとても寒そうだ。

「政宗! バックストラップのついたヒールじゃないと駄目だと言っただろう?」

 小十郎は、酔っぱらってふらふらと先を歩く政宗に向かって小言を叫んだが、そうは言いながらもその飛び出た丸いかかとが愛おしくてたまらない。
 
「いいじゃれ〜か、よッ
履き、やすいんらから…」

 舌足らずになるほど飲んだ理由は、もちろん久秀にある。それは単純なゲームだった。「あっちむいてほい」で負けた方が、ショットグラスに注いだ日本酒を一気のみする、というもの。最初は面白いように政宗が勝っていたのだが、久秀が途中から、

『本気でやらせてもらおう…』

と言いはじめ、何やら呪文のように、勝負の前にひとつ、パチン、と指を鳴らすようになった。すると、今度は形勢逆転。久秀の指す指に引き寄せられるように、政宗はどんどん負けていった…というわけだ。

 ふらふらと心もとない歩き方の政宗を、後ろから見守っていたが、あまりにも酷い有様なので、小十郎は駆け寄り、彼の肩を抱いた。

「大丈夫か? 寒くないか?」

「…ぜ〜んぜんへーきらって!
このこーと、かしみや、だぜ? ココ! ココなんてふかふか〜しるばーfox!」

 うふふー、と目を細め、襟のファーに頬を擦り寄せにこにこする様子に小十郎は、抱きしめてキスしてもうその辺りの路地裏にでも連れて行って壁に押し付けてドレスの裾をたくし上げてしまいたいくらい可愛かったが、そうしなかったのには理由があった。

 そのコートは久秀が贈ったものだ。

 政宗はファーの感触をまだ楽しみながら、小十郎の肩にしなだれかかっている。

(…こういったことは想定内で、全てひっくるめて政宗を守ると決めた…)

 小十郎は星の見えない空を仰ぎ、白い息をふーっと吐くと、少し落ちついたように思ったが、すぐ肩に異物感を感じそこに目をやった。

 政宗が寄りかかり、耳たぶについた大きなイヤリングが小十郎の肩に食い込んでいた。

(そう言えば、これも…)

 小十郎は胸につかえる何かを吐き出そうと、無意識に声をかけた。
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