★〜club 双龍〜★
□(1)
1ページ/4ページ
■not女体。美しい男性が女装をして接待してくれるクラブが普通にある世界…みたいな感じで読んで頂けるとありがたいです
「club 双龍(1)」
薄暗い店内に、安っぽい100円ライター石の擦れる音がカチカチと何度も響く。
「…オイ、お客さんがくる前に煙草吸うなっていつも言ってんだろ?」
「いいじゃねーか、小十郎の小言は聞き飽きたっつーの…ん、駄目だこのライター。すまねぇ、火ぃ貸せ」
カウンターの中でグラスを磨いていた小十郎は、ベストの胸ポケットからジバンシーのライターを取り出すと、慣れた手つきで火に手をかざし、政宗が指に挟んだ煙草に火をつけた。
「…ん、Thank you。何、ソレ。高そうだし、女もんじゃねえ?」
政宗は気持ち良さそうに、胸に煙を溜め込むと、ゆっくり吐き出した。
「というか…政宗が接客するんだぜ? お前こそ気にしろよ、もっと。それ、100円ライターだろ?」
「いや、厳密に言えばスロ屋で4枚交換だから、80円ライターだ」
小十郎は呆れた顔で、素知らぬ顔の政宗を見つめると、深いため息を吐き、またグラスを拭き始めた。
「…客、こねーな」
カウンター席に腰をかけていた政宗は、真っ青なホルダーネックのロングドレスを翻し、席を立った。
向かった先は、カウンター内の冷蔵庫。高い背を縮ませ、冷蔵庫に頭を突っ込むと、ビールと冷えたグラスを取り出し、鼻歌を歌いながらまたカウンター席に戻って行く。
「…オイ、政宗。誰が飲んでいいと言ったんだ?」
政宗はその言葉をいとも簡単に右から左に聞き流し、
「あ、小十郎コレ開けて」
睨みつける小十郎にビールを片手でひょいと差し出した。小十郎は無言で受け取り、カコン、と小さな音を響かせると栓を抜き、いつものようにカウンターに置いてあるグラスにビールを注いだ。
「じゃ、かんぱーい」
政宗は待ちきれない様子で、小十郎にウィンクして、グラスを高く持ち上げると一気に飲み干した。
―――――トルルルル…
またひとつ小言でも、と思った矢先電話が鳴ったので、仕方なく小十郎は電話へ向かった。
「ハイ、クラブ双龍でございます。ええ、松永様、はい…いつでも結構ですよ、ハハハ…ええ、閑古鳥です。政宗も待ってますよ。では失礼致します」
小十郎はそっと電話を置くと、苦虫を噛み潰したような顔で、政宗を見た。
「何? 久秀来るんだ。アイツ羽振りいいから好きだぜ〜」
(俺は…嫌いだ)
ニコニコと嬉しそうな政宗を見て、小十郎はさらに不愉快そうな顔をする。政宗が久秀に、他の客以上懐いているのが気に入らないが、上客なので何も言えない。
(続く)