おはなし

□冬が融解する
1ページ/1ページ




空気が澄んでいる。
がこん、と自販機から目的の物が落ちる。しゃがんでそれを取り出す。寒さにやられてすっかり冷え切ってしまった手に、缶の熱さが痛いほど沁みる。歩きながら両手で握り締めるとゆっくり解れていく気がした。飲むよりもまず、手先を温めることが優先だった。充分に暖を取ったあと、プルタブを開ける。
カポッと小気味良い音がする。


「何買ってるの」


声のする方に首を傾げると鼻先を赤く染めたしげるくんがいた。足早にやってくる彼は学校の帰りだろうか、学生帽を被り、詰襟の上に外套、そしてマフラーを纏っている。防寒はしっかりしても、どうにも顔は温まらないようだ。
足を止めてこれ、と買ったものを見せる。その途端、端正な顔に眉が寄った。北風に負けないとても冷ややかな目線を感じる。

「飲む?」
「お茶ならまだ考えた……。けどおしるこはないな…名無しさんさん、ない」
「う、うるさいな、飲みたい気分だったの」

そういい缶を煽ると今度はお腹の中がじわりと暖かくなる。やっぱり甘いものっていいな。
もし飲みたいようであればしげるくんに渡すことも考えたのだが、こういう態度ならその必要もないだろう。
わたしはおしるこをすすりつつ、かたや口元までマフラーを上げて、家までの道を歩く。温かいものを飲んだせいもあり吐いた息は一段と白い。
信号が赤になり、わたし達は足を止める。

「しげるくん、」
「なに?」
「本当は飲みたいでしょう」
「べつに……」

となりの顔を覗き込むとそっぽを向かれた。
反応はわかっていたが仕方ない。伏せた顔からちらちらと伺われたら聞かざるを得ない。
車や自転車が数台行き交ったあと、横断歩道が赤から青へ変わり、通りゃんせのメロディが流れ始める。同じように信号待ちをしていた人らがぞろぞろと歩みだす。

「名無しさんさん、」
「んー?」
「やっぱり頂戴」

その台詞に苦笑いするとともに、缶をしげるくんに渡す。わたしと同じように両手で抱えて手を温めたあと、口を付けた。表情が和らぎ、ほう、とマフラーを通されずに出た息は、髪と同じ色をしていた。そして「やっぱりない」とだけ呟いてすぐわたしに返してくる。またマフラーに口元は隠され、手はポケットの中だ。
それから缶の中身がなくなるまでに二三度はせがみ、飲んだり手を温めていたりしてした。ぶつぶつ言いつつもおしるこは嫌いではないように思える。初めから変な意地張らずにもらっておけばいいのに。
結局、わたしひとりだけで飲む予定だったものが、ほぼ半分こずつとなってしまったのだ。




冬が融解する
(間接キス)
(あーそうですねー)




おわり
==========
保護者と被保護者を出ないといい
ていうかしげる口調全然分からなくて泣いた、年相応の〜シリーズ見てたせいもあるか


羽住キオ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ