おはなし

□証拠がないの
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面倒なことにわたしとおっさんさ四六時中繋がれることになってしまった。着替えるときもお風呂のときもトイレのときもだ。
とはいっても扉を閉めると誰かが『許可』しなければ中に入ることは出来ないとのことだった。それから、姿の可視、不可視は自在に操れるらしい。ただ、それにはわたしが関与することはできず、おっさんの気分次第だった。なお、『無機物』を触れることはできるが、動かすことはできない。
幽霊(自称天使)のルールもなかなか難しい。
他に聞きたいことはあるかと聞かれたので、


「おっさんはなんで死んだわけ」
『またドストレートな質問だな…』


ベッドに腰掛け、椅子に跨がるおっさんに尋ねてやった。
自室にいられるのに若干の抵抗はあったものの、どうしようもないと開き直った。扉を隔て会話するほうが、なんだか気持ち悪い。
おっさんは問いにすぐには答えようとせず、しばし紫煙をくゆらせる (煙草の幽霊、とやらで、現世にはなんの影響を及ぼさない、というスグレモノだ)。


「幽霊なんでしょ? この世にいってことは、成仏できてないわけ、じゃあ、よっぽど念があって死に切れなかったんじゃないの」
『だから天使…』
「死人で憑いてるって点じゃどっちでも変わらないし」


で、どうなの、とじっとみつめて答えを促してみるものの、そうなあ……と呟きまだまだ焦らす。煙を吐き出してみたりとか、灰を落としてみたりとか、軽く頭を捻ったりとかしていた。
そうして、ふらふらと視線を空にさ迷わせたあと、

『わりい、覚えてねえんだ』

ニ、と悪戯っ子のように笑い、宣った。
は。
うそだ、と即座に返しても、ほんとだほんと、と飄々と答えられる。

「じゃ、じゃあ今まで答え溜めてたのなんだったの」
『溜めちゃねえよ。ちと思いだそうとしてなあ。お前さんの読みは外れてたみたいだな』
「ええ…」

そうかなあと無意識で口元に手を伸ばす。
わかりつつも言うかどうか迷っているようにも見えたけど、わからないから思い出そうとして、結局むりだったようにも見えるといえばみえる。わかるのならば、話さない理由があるし、忘れたにしては、考える動作が長すぎるような…。
わたしが思案する様子を見て、何か懐かしげにおっさんはくつくつ笑う。
はたと顔を上げる。

「でもなんで死んだかわかんなくて、そんな笑ってられんの」

死んだ人の感情なんてわからないけど、気持ち悪くないんだろうか。

『いいんだ、そんなものは』

大事なのは『今』じゃねえかなア…、と隣に腰をおろした。ベッドは軋まないし跳ねないし、新しいシワも作らない。それを聞いて、さっきのも含めてまた頭を動かす。
納得できんけど、そういうもんなのか。なあ。


目を伏せて堂々巡りの思考を停止できなかったわたしには、頭をすりぬけたてのひらを知らない。








(お前の親父もよく同じように難しい顔してたよ)
(え…)



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すべてが後付け
最後のは(麻)回に入れたかったんだけどはいらなくてウギャーてしてたの

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