おはなし

□ようかんでようかん
1ページ/1ページ






爛々ときらめく(ように見える)栗ようかんを適当に楊枝で切って口に入れた。芳醇な香り、中身の詰まったのがわかる食感、濃厚な味わい、喉を通っても口内に残る余韻に、破顔せずにはいられない。
幸せって、たぶん、こういう瞬間のことを言うのだろう。
衣和緒ちゃんがチョイスしてくれただけあり、今まで食べたどんな羊羹よりも美味しくて、自然と、頬に手を当ててのため息、そしてお決まりの言葉が漏れる。
「ンま〜〜〜いぃいい……」
それを聞いたテーブルの向かいの衣和緒ちゃんは目を大きくして、ぱあっと明るくなった。いうなれば花が咲いたように。
「ほんとか! よかった……!」
そのままほっと胸をなでおろした彼女は「今日の菓子はどこどこ堂のものでな、あ、あとお茶もなのだが、評判はな……」という話を始める。わたしはそれに対して相槌を打つ。
ああ、和菓子はおいしいし衣和緒ちゃんは可愛いしわたし圧倒的至福っ……!!

わたしと衣和緒ちゃんは放課後によくこのようなお茶会モドキをするのだけど、大抵こんなかんじだった。彼女がおいしーと思しきものを持ってきては、わたしがお呼ばれされる。そのたび彼女は「どう? どう?」とわたしの反応を伺ってくる。わたしもそんな衣和緒ちゃんの反応を伺っているのだが、これは多分知られていない。
茶菓子の大体は評判や見た目通り美味しいものなのだが、一度わたしの苦手な食材を使われていたことがあった。正直に告白したところ目を見開いて白黒させて口をパクパクしたあとしょんぼりとうなだれていた。カチューシャに施されたリボンも、心なしか元気がなくなったようだった。ちょっぴり罪悪感もあったがこれはこれでサンキューベリーマッチッ…!であった。ごめんね。

「ところで衣和緒ちゃん」
「ん?」
「今度はカフェにいかない?」

煎茶の入ったティーカップ(衣和緒ちゃんにちは湯のみがない)をテーブルに返すと、ソーサーと触れ合い金属的な音を出した。ゆらゆらと澄んだ緑の液体が揺れる。
――いっしょにカフェに行く。
それはかねてからのわたしの願いでもあった。
こんなに広いお屋敷なのに、ふたりぼっちでお茶会は寂しい。衣和緒ちゃんによれば大人数を呼ぶのは嫌だ駄目だ(とくに赤木くんを出したら全力で首を振られた)とのことで、そしたらわたしたちが別のところに行くしかない。
それに、衣和緒ちゃんとお外で食べてみたいという欲があった。お洒落喫茶に連れていきたい。いつももらってばっかりだし奢ってみたい。どんな顔をするだろう。我ながら妙案だと思っていた。
しかし視線を戻してみると、衣和緒ちゃんは摘んでいた楊枝を落としたまま動きを止めて、わたしの記憶の中のように目を見開いて、すぐに眉をハの字にさせた。思わず「え」と硬直。よくわからなくてこちらまで目を開いてしまい、ついでに冷や汗が浮かぶ。しばらくして衣和緒ちゃんが口を開いたと思えば、

「名無しさんはもうわしの菓子と茶がいらないのか……?」

そう、不安そうに聞かれた。じっとこちらを見ている。どんなことがあっても、答えが出るまでは衣和緒ちゃんは視線を逸らさない。そのせいかよく見なくても、瞳につく水の膜が増えているのがわかる。
かわい……じゃない。

「違う、そんなことないの」
「じゃあなぜっ…!」

だん、とテーブルが叩かれて、衣和緒ちゃんが声を荒らげて畳み掛ける。
これは骨が折れるかなあ、と思ったが、ちゃんと説明するしかない。
わたしは、衣和緒ちゃんちのお茶とお菓子は美味しくて不満はないこと、でもたまにはわたしのスペースにも衣和緒ちゃんが来て欲しいこと、衣和緒ちゃんとおしゃべりするのが好きなこと、それと衣和緒ちゃんが大好きなことを伝えた。
そしたら、急に頬を赤くしてそっぽを向かれた。一緒に、さらりと銀の髪がゆれ、顔が隠れる。ほんとうに顔と態度に出やすいなあと思った。

「衣和緒ちゃん?」
「……… …ぞ?」
「ん?」
「だからっ…行ってやってもいいぞ、と言っている!」

こちらを睨みつけて鼻を鳴らし、あくまで高飛車に、衣和緒ちゃんは言い放った。
カチューシャに施されたリボンはぴーんと跳ねていて、うさぎのようだったので、わたしは思わず彼女の頭を撫でてしまった。





ようかんでようかん





(うちの近くに、おいしい喫茶店があるの! 連れてってあげるね!)
(お……おう……。ま、当然、じゃな……! 期待しておるぞ)







-----------------
羽住キオ渾身のギャグ(タイトルが)




●●


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ