おはなし

□星屑泥棒
1ページ/2ページ


(カイジがクズって言ってるだけ)








「カイジくんって、ほんとクズ」
「はあ?」

勝手にうちにあがりこんだと思うと、まるで自分の家のようにさんざんくつろいだ挙句、ぱっと顔を上げて名無しさんはそう言い放った。机の対面で、クズニートの極みね、笑う。それが家主に言う言葉かと思う。だが彼女が立派に定職につき、カイジを養っているかというとそんなこともなく。
お前だってクズのニートだろ、と言い返すと机に広げていた求人雑誌を無言でチラチラされた。
紙面の幾つかのページは隅が折られていて、赤丸で括られているものもあった。一応まともに探していることで、働く気はあるからニートではないの、言いたいのはそんなところだろうか。
それにしても得意げな顔である。大して立場は変わらないというのに、そんな風に罵られる筋合いはあるのか? 自然にこちらも対抗心が生まれてしまう。


「じゃあ‥クズ‥‥ 無職のクズ女‥‥ これでいいか?」
「じゃあって何よう‥典型的ダメ人間のカイジくんっ」
「なんだよっ‥‥ダメッって‥‥‥。だってまず名無しさんってば性格がクズじゃん‥‥! そんなんじゃ職が見つかっても続けられない‥‥」
「なっにそれー! カイジくんだってそんな甘々だとそのうち絶対騙されるよ!」
「クズ女に比べたらマシッ‥‥」
「マシじゃないよ! バカッ お金もないのに酒もタバコもやるしパチンカスだしさー!」
「それが一番効率いいんだって! 頭のよえークズの名無しさんには分からないだろうがっ」
「いいわけ無いでしょう! そういえばまた変な傷こしらえてきたしさー、どこまでドMなわけ?」
「名前には関係ない‥‥」
「大有りだろアホ」
「なっ バカとかダメとかアホとか‥‥お前ほんと‥‥く‥」


クズ、と言いかけて、名無しさんが小さく笑い始めたことに気付く。意味が分からなくて、眉をひそめる。


「な‥‥なんだよ‥‥」
「ごめっ‥‥またクズって言おうとしたでしょ? カイジくん、ほんとやっさしーんだなと思って‥‥!」


はあ?
ますます意味がわからない。今自分は散々なことを彼女に投げかけていたはずだが。しかもクズだぞ? 理由を問うても「ないしょ」と目を細くして返されるだけだった。
くすくすと口元をおさえて楽しそうに笑う名無しさんの様子を見て怒る気にもなれず、口を尖らせながら頭を掻いた。そして今度はその様子を見て、また屈託なく顔をほころばせていたので、もうどうでもよくなってしまった。


冷たい風が吹き込んできたので窓を閉めると、知らず知らずのうちに外は日が落ちて始めていた。空には既に一番星が、雲に紛れて輝き始めている。


「あー‥名無しさん?」
「はい?」
「ちょっと早いけど‥飯でも食いに行く?」
「ん!」





星屑泥棒


(罵倒のレパートリー少ない)
(オレを心配してくれていた?)




おしまい




次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ