おはなし

□爆発青春劇場
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あ、

しまったと思ったときにはもう手は止まらず、相手を殴った感触だけが残った。
即座に後ろに控えていたらしい黒服の連中がやってきて捕らえようとするが、あいつの一声がそれを制した。


「ってー…あんたなかなか」


のそりと起き上がりふっとんだサングラスをかけ直したかと思うと、「やるんじゃん」の声とともに膝が飛んできた。
たまらずに体をくの字に折る。すっぱいものがこみ上げてくる。
腹を押さえつつ顔を上げるとあいつが見下げていたのでちくしょうと思い、その首に巻かれていたスカーフを思いっきり引っ張る。振ってきた頭に殴り上げる。またしてもサングラスが飛び、今度は川へと落ちた。
まだまだと足を体にぶち込もうとするが、それは捕らえられ不発に終わる。
舌打ちをする暇もなく頬に衝撃が走る。次いで背中。ぐっと堪え、辛うじて後頭部が河原に激突するのは免れる。


「サングラスもそれも……高かったんだけどな〜」


知るか。
まだくらくらする頭を押さえつつ立ち上がる。布の感触がして、手にスカーフを持ったままだったことがわかる。あいつは首からとっさに解いたらしい。折角なので鉄の味がする口を拭ってからスカーフを地に放りなげる。


「女の子の顔狙うなんてサイテー」
「あんたこそ……俺のカッコイイ顔が台無」


し、の音と、お互いに踏み込んだのはほぼ同時だった。
身を屈めて腹に手ごたえ。揺らいだようだが倒せない。落ちない。そのまま背中を上から押さえつけられ一瞬にこちらがして沈む。角がとれて丸くなった石でも硬いものは硬いんだ。髪の毛をつかまれ、顔を上げらさせられると、ひねくれた目とぶつかった。油断したように近かったので、足に力をこめて頭突き見舞う。同時に髪は解放される。


「やるっ…!」
「ならっ……!」


邪魔だったのか、あいつはジャケットを放り投げた。
ここからが本番なのか。いいよ、いいじゃない。




しばらくそんなことを続け、気がついたときには日が陰り、ひぐらしが鳴き始めていた。
わたしと和也は河原に横たわって、荒くなった息を静めながら空を仰ぐ。
全身が悲鳴を上げている。親になんて説明しようかなあなんて考えていると、隣のが口を開く。


「俺たちさあ…なんで殴りあってたんだっけ……?」
「さあ……」
「あっそ、」

そう言うとカカカッと意味ありげに大笑いしだしたので、わたしは少しぎょっとしてしまった。


そのあと。
間もおかないうちに学校に退学処分を告げられ、さらに状況を理解する間もないまま、わたしは帝愛への入社を余儀なくされたのだった。




爆発青春劇場





「これが青春ってヤツ…」
「ふ、ふざ、ふざけないでよ!」


おしまい

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