おはなし

□偏執フェイブレラ
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どよんど。
そんな擬音が似合いそうな灰色の空だった。日中もかなり重苦しかったけれど、夕方は更に悪化していた。雨はまだ降っていないものの、いつ降り出してもおかしくはなさそうだった。

わたしはその天気の中、お世話になった先生にあいさつをすべく母校へ訪れていた。
恩師の名は北野右京。くるくると流した前髪と、きりっとした眉が特徴的なナイスガイだ。彼に背中を押していただいたからこそ、自分はDAに入学することが出来て、今の自分があるのだ。そう思うと感謝してもしきれない(普通に問題を起こしてお世話になった節もあるのだが)。

すこし懐かしくも(といってもたかが2年ぶりなのだが)見慣れた学内を見回しながら歩く。埃の舞う玄関も、外のよく見える廊下も、整った空調も変わっておらずに安心した。目指すは職員室だ。放課後の時間にあわせてきたので、二言三言くらいは話せるは――


「うおあッ!?」
「おふっ」


ずなのだが。
ウン、廊下の真ん中をトロトロ歩いていたわたしも悪いよ、でも、後ろから人が激突してくるとは思わないじゃないのー!
(わ、とと)
衝撃の後で二三歩ステップを踏んでから、わたしは寸でのところで前に素っ転ぶことをまぬがれた。
その横を「ごめんなさ〜い!」ぶつかった本人であろう少年が通りすぎて行って、角を曲がって消えた。たしか先は中庭で、放課後は多くの生徒がデュエルに勤しんでいたところだ。
つまり彼はデュエル少年。元気のよろしいことで。

体制を立て直したところで、また後ろから走ってくる足音が聞こえ、振り返る(もうぶつかられるのはごめんだ)。すると緑の髪の少女とずんぐりむっくりな少年が駆けてきて「ゆうまがこめんなさいっ」と一礼。そして同じように通りすぎていった。

その後ろ姿を見つめ、やはりここのスカートは短すぎる、と思わずにはいられなかった。翻る布切れと、そこからのびる脚、そして見えそうで見えないぱんつ。ふと足が止まって、スカートがひらりと舞って、

(! ばれた!?)

いきなり振り向かれドキンとする。


「……シャークもはやくーっ!」

彼女はそういってこちらに向かって手を振り、また駆けてゆく。わたしが見ていたことには気づいていないようだった。
しかしシャーク?とは。
おそらく自分の後ろにいるのだろうと思い、頭だけで振り向いてみる。
瞬間、二度見。


「……トンマ…なんでここにいやがる…………」


そこにいたのは自分の幼馴染である神代凌牙だった。眉間にシワが寄って、さも嫌そうな、それでいて恥ずかしがっているような、とっても微妙な表情をしている。しかしながら、事情を話すととりあえず納得したようだった。彼はといえば、これから「ゆうま」(ぶつかった少年かな)とのデュエルに付き合わされるらしい。頭を掻きながら「仕方なくだ」と何度も念を押して凌牙は話していた。仕方なく、ねえ。

「時間が合ったら一緒に帰ろうよ」
「フン、合ったらな」

うん、と返事をすると彼はひらひらと手を振りながら、中庭に向かっていった。足取りがゆったりしていたので、「はやく行ってあげなよ!」と声をかけると心なしか早足になった気がする。それから、またあの少年が顔を出して大声で急かしたので、凌牙は明らかに早歩きになった。その後ろ姿を見ながら、
(トモダチ、出来たんだぁ…!)
なんて感動してしまう。

実はこの地を離れてから、この幼馴染が学校に来ているかも不安だったし、ちゃんと生活しているのかも不安だったのだが、無事に解消しているようで胸をなで下ろす。しかもプラス要素があった。無意識に、職員室まで進む足取りが軽くなる。鼻唄まで歌ってしまう。
右京先生は知っているのだろうか。

(話してあげなくちゃ! そして知っていたら詳しく聞こう!)





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