おはなし

□おねーちゃんといっしょ
1ページ/2ページ







深夜――
ぱちり、と目を覚ました。
それは習慣でもなんでもない。
頭は覚醒せずとも、目が暗闇に慣れずとも、起こされた原因が外のひどい雷雨だということは直ぐにわかった。

風に煽られた雨は窓を容赦なく叩き付けているし、雷はひっきりなしに光り、そして轟音を鳴らす。たまにひどく近いものがあり、建物の壁を揺らすほどだった。
迷惑な気象に思わず眉を寄せた。寝返りをうち、布団を顔まで被り、もう一度寝ようとした。が。

またしても安眠を遮るのは、自室の扉の向こうからかすかに聞こえるすすり泣く声。

ぞわ、と悪寒がして体を強ばらせる。どれだけ鍛えていようが、理解出来ないことは恐怖だ。だめだだめだ、と思いつつも意識はそちらに向かってしまう。しかもどうやら止む気配はない。

意を決し、寝台から足を降ろす。思った以上に床が冷たくて、つま先から頭のてっぺんまで震えが走る。ひたりひたりとそのままゆっくりと扉に向かい、


「だ、誰か、いるの?」


と声をかける。

と、眩しいくらいに部屋が光り、数秒もせずに巨大な音がした。びりびりと部屋を揺らす。

すると泣き声がぴたりととまり


「ふわあん!」
「!?」


どっと衝撃。

すごい早さで、何かが腰にしがみついてきたようだ。ひ、もごふ、という悲鳴も出ないほどに心臓が跳ね上がった。ついでに嫌な汗も湧いて出た。

硬直。

しかし、そのままぐずぐずと泣きじゃくるのは、聞き覚えのある声だった。視線を落としてみると


「トキ?」


それは我が北斗の弟の方だった。
なんだ、と胸を撫で下ろす。

反対にトキは落ち着かない様子で「ふえ」だの「ごめっ…なさ」だのしゃくりあげている。
そして一瞬部屋が明るくなるたびに肩を震わせ、腕の力を強くする様子は、どう見ても雷に怯えていた。

よしよし、とゆるくウェーブのかかったような髪を撫でてやると、徐々に声は穏やかになっていった。


トキのホールドから開放されたあと、若干屈む姿勢になり目線を合わせる。

大きな瞳は、まだ涙で潤んでいた。


「怖かった?」
「うん……」
「そっかそっか」
こわかったかー、とくしゃくしゃと頭をかいてやると、首にまたしがみついてぐずりだす。

実はトキはわたしが目覚める前から扉の外いたようだった。しかし部屋に入る踏ん切りがつかず、そのまま泣いていたらしい。
寝ているわたしに遠慮してか、自身のプライドか。いずれにせよ暗い廊下にひとりで怖かったろうに。

罪悪感に駆られながらも、小さな背をとんとんとあやす。


「ね、姉っ…さん、あのっ」


言わんとすることは皆まで言わずとも理解できた。

そのまま抱き上げ、寝台に放り投げる。ひゃっと小さな悲鳴が聞こえた気がするがまあいい。


「一緒にねよっか、わたしも怖いの」


そして、二人で布団に潜り込む。
眠り際にトキは「兄さんには、泣いたの、内緒にしていてね」と、しーっのポーズをとった。
なるほどそういう理由でこちらに駆け込んで来たわけか。お願い、と頼むトキが可愛くて自然と顔がほころんだ。

そのあと何度か起きることがあったようだが、隣にわたしがいることを確認すると、泣き出すこともなく静かに目を閉じていた。
はやりふたりという暖かさと安心感は絶大だったようだ。それはわたしにとってもで、同じく緩やかに落ちた。


早朝。
ばれないように、と彼は戻っていった。
昨夜トキには承諾の返事をしたものの、擦って泣いて赤くなってしまった目は、隠しようがないなあと思うのであった。











●おわり●
どうでもいいあとがき→

次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ