おはなし
□おねーちゃんといっしょ
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深夜――
ぱちり、と目を覚ました。
それは習慣でもなんでもない。
頭は覚醒せずとも、目が暗闇に慣れずとも、起こされた原因が外のひどい雷雨だということは直ぐにわかった。
風に煽られた雨は窓を容赦なく叩き付けているし、雷はひっきりなしに光り、そして轟音を鳴らす。たまにひどく近いものがあり、建物の壁を揺らすほどだった。
迷惑な気象に思わず眉を寄せた。寝返りをうち、布団を顔まで被り、もう一度寝ようとした。が。
またしても安眠を遮るのは、自室の扉の向こうからかすかに聞こえるすすり泣く声。
ぞわ、と悪寒がして体を強ばらせる。どれだけ鍛えていようが、理解出来ないことは恐怖だ。だめだだめだ、と思いつつも意識はそちらに向かってしまう。しかもどうやら止む気配はない。
意を決し、寝台から足を降ろす。思った以上に床が冷たくて、つま先から頭のてっぺんまで震えが走る。ひたりひたりとそのままゆっくりと扉に向かい、
「だ、誰か、いるの?」
と声をかける。
と、眩しいくらいに部屋が光り、数秒もせずに巨大な音がした。びりびりと部屋を揺らす。
すると泣き声がぴたりととまり
「ふわあん!」
「!?」
どっと衝撃。
すごい早さで、何かが腰にしがみついてきたようだ。ひ、もごふ、という悲鳴も出ないほどに心臓が跳ね上がった。ついでに嫌な汗も湧いて出た。
硬直。
しかし、そのままぐずぐずと泣きじゃくるのは、聞き覚えのある声だった。視線を落としてみると
「トキ?」
それは我が北斗の弟の方だった。
なんだ、と胸を撫で下ろす。
反対にトキは落ち着かない様子で「ふえ」だの「ごめっ…なさ」だのしゃくりあげている。
そして一瞬部屋が明るくなるたびに肩を震わせ、腕の力を強くする様子は、どう見ても雷に怯えていた。
よしよし、とゆるくウェーブのかかったような髪を撫でてやると、徐々に声は穏やかになっていった。
トキのホールドから開放されたあと、若干屈む姿勢になり目線を合わせる。
大きな瞳は、まだ涙で潤んでいた。
「怖かった?」
「うん……」
「そっかそっか」
こわかったかー、とくしゃくしゃと頭をかいてやると、首にまたしがみついてぐずりだす。
実はトキはわたしが目覚める前から扉の外いたようだった。しかし部屋に入る踏ん切りがつかず、そのまま泣いていたらしい。
寝ているわたしに遠慮してか、自身のプライドか。いずれにせよ暗い廊下にひとりで怖かったろうに。
罪悪感に駆られながらも、小さな背をとんとんとあやす。
「ね、姉っ…さん、あのっ」
言わんとすることは皆まで言わずとも理解できた。
そのまま抱き上げ、寝台に放り投げる。ひゃっと小さな悲鳴が聞こえた気がするがまあいい。
「一緒にねよっか、わたしも怖いの」
そして、二人で布団に潜り込む。
眠り際にトキは「兄さんには、泣いたの、内緒にしていてね」と、しーっのポーズをとった。
なるほどそういう理由でこちらに駆け込んで来たわけか。お願い、と頼むトキが可愛くて自然と顔がほころんだ。
そのあと何度か起きることがあったようだが、隣にわたしがいることを確認すると、泣き出すこともなく静かに目を閉じていた。
はやりふたりという暖かさと安心感は絶大だったようだ。それはわたしにとってもで、同じく緩やかに落ちた。
早朝。
ばれないように、と彼は戻っていった。
昨夜トキには承諾の返事をしたものの、擦って泣いて赤くなってしまった目は、隠しようがないなあと思うのであった。
●おわり●
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