おはなし

□人魚姫
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その日の丸藤さんは、おかしかった。
具体的にいうと、ファラオを「トメさん」と呼びパンをせがんだり、ドローパン(ジャム)をとても美味しそうに食べていたり、授業中、指された問いに答えられなかったり、あまつさえ柱にぶつかったりしていた。クロノス先生もびっくりだ。
更に決定的だったのが


「おーいカイザー! デュエルしようぜ!今日こそおれが勝…」
「あ、いや、俺は、いい」


授業後、十代のデュエルの申し出を断ったことだった。
思わず握っていたシャーペンを落としてしまった。
その後、彼はそそくさと教室を出ていったのだが、燕尾の棚引く後姿はどうも重い。
あっ、壁に自動ドアが開かなくて激突した。



「ねえ、今日の丸藤さんおかしくない?」
「あ、やっぱり名無しさんもそう思うっす?」
「そうよね……
でも亮に聞いてみても『なんでもない』っていうだけなのよ……」


教室の一箇所に集まり、わたし、丸藤くん、明日香とで、う〜んと頭を捻る。
アレでなんでもないわけがないと思うのですけど。
「そうだね、僕も変だと思う……心ここにあらずって感じだね。つまりそう、恋煩い! 亮にもついに春が来たのさ!」
「なるほどさすがお兄義さん!」
後ろからぐいっと身を乗り出して介入するは吹雪さんと万丈目くん。
二人の目は爛々と輝いているが、明日香に「そんなことないでしょ!」と一蹴されていた。

「なんなんだろうな〜
よくわかんねーけど、早くカイザーとデュエルがしたいぜ!」

デュエルを断られた本人は不満げにじたばたしていた。
それからみんなと、色々と今日の丸藤さんのひどいところを聞いた。吹き出すものから本気で心配するものまで、どうやら、わたしが見た以上にいろんなことをしでかしていたらしい。
頭を抱えた。
本当に、どうしたのですか。


*


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