おはなし

□カウントダウン
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どうしてあの女を選んだの
あれがあなたに振り向かないってことぐらい  
賢明なあなたにはわかったことでしょうに




カウントダウン




「あら」
ひどい砂埃が舞っていた。
サザンクロス、と呼ばれていた街だったか。
かつてはKINGと名乗る者が治め、それなりに復興し始めた都市だと聞いていた。しかしいまやその面影はなく、ただの荒廃した町並みが残るだけであった。ビルは崩壊し、水場であろう場所はすっかり乾ききっていた。
こんなところでも何か掘り出し物はないだろうか、と淡い期待を抱きながら歩いていたところで、それを発見した。
腹を蹴り上げてみると、見知った顔が苦悶に歪んで、情けない声をあげた。四肢はひしゃげ、胸には十字のような殴打の痕、ブロンドは血と砂に塗れており、吐瀉物も多少。まったく無様だった。

「久しぶりじゃないの、シン」

それは、自分が昔に恋慕を寄せていた相手だ。何があったかは知らないがもう息も絶え絶えのようだった。過去を思い出して想像するに、きっとケン辺りにでもやられたのだろう。知ってる、そりゃあ、人の女を無理矢理奪ったのだ、逆襲されるのは仕方がない。そしてKINGと呼ばれたが男がシンだと気付く。そうそう、風の噂で聞いた話だけど、KINGって女に腑抜けたせいで、部下の謀反を許してしまったのだっけ。女ってのはユリアのことで。


「ぎゃはッ」

自然と笑いが漏れる。結局、奪った挙句に、自分のものにできていないのだ。
そして、死因はどうあれこれはもうすぐ死ぬ。ケンにやられたのなら破裂するだろうし、今の痛みが勝るのならショック死もするだろう。
その前に、とわたしは死体寸前のそれに跨った。ホルスターから銃を抜き、口にぶち込む。

「……ご」
「ねえ、もう死ぬんでしょ、ちょっと付き合ってよ」

実にいい格好だった。
かつてわたしを無下にした男が、今度は股下で喘いでいる。
思わず、ため息。


「わたしを愛していると呟いて」


ほらほら、とゴリゴリ喉に押し当てる。
血迷った選択をしたことを、泣いて詫びて。
自分がどんなに愚かしいことをしたか。
グリップを握る手に力が入る。



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