おはなし

□指に恋した
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時は既に遅く、光は落ちて、闇は深く。
昼間の燦々とした明るいデュエルアカデミアの姿はまるでなく、残すものは閑散とした風景と自然の作りだす音のみであった。ほうほう、と山で梟が鳴いている。ざざ、と波打つ音がする。ただ、海も山も、色は全て飲み込まれていた。
そしてそれは各寮でも違いなく。
「あっ……りょ うッ」
「し、」
オベリスクブルーの男子寮の部屋に男と女がひとりずつ。
部屋の主丸藤亮は、自分の真下に敷かれた名無しさんの口内へと己の指を差し入れ、その口の自由を封じた。隣の部屋の生徒ならまだしも、寮長に聞きつけられてしまってはたまったものではないからだ。それに対して名無しさんは「ぐ」と声にならない音を隙間から漏らした。
そして、亮は名無しさんへ強く突き入れる。二度、三度。絶えずに。
そのたびに名無しさんは指をぎりときつく噛んだ。亮がしっかりと自分の弱いところを突いてくるし、更に声を漏らしてもいけないのだから。亮が指を突っ込んだのも、そのためだと思った。亮の指は、ごり、と音が聞こえてしまいそうなほど、皮のすぐに骨がある感触がした。
名無しさんは、相手の痛みとか噛み跡とかを気にしている場合ではなかった。与えられる激しい快楽に耐えることに必死であった。




早朝、名無しさんがまだベッドでくたびれているうちに亮は起きだし、浴室に向かった。ドアノブに手をかけた際、昨夜付けられた噛み跡が目に入った。くっきりと赤く円を書いたそれは、指輪のようにも見えた。
そのまま浴室に入り、シャワーの蛇口をひねるとまだ温まりきらない水が飛び出す。
指に出来た赤い跡が、それに当たって少々沁みた。
しかし、背に当たった痛みはそれ以上であった。
名無しさんは、亮が強く突けば突くほどに、自分がよければよいほどに、それを堪えようと必死になった。堪えたいが故に、背中に回した手で、無意識のうちに背中に爪を立てるのであった。皮を剥いてしまうほどに深く、そして鋭く。昨晩の名無しさんも例に漏れることはなく、むしろ今まで以上に懸命に亮の背中を抉った。
結果として亮のシャワーで濡れた背には、今までで出来た幾重もの赤色の縦線が広がっていた。だが今でも情事中であっても、背中に走る痛みが気に障ったことはなかった。
むしろ。

(この痛みが、俺は)

徐々に体を伝わる水が熱を持っていくのがわかる。
亮は眼を瞑り一人浴室で息を漏らした。









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