おはなし

□独り立ちはまだ先
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夜の雀荘にて。
零と涯に連れてこられたはいいが、初めて訪れたわたしは早々に気疲れしてしまって、ひとり別室で休んでいた。
ミルクをたっぷりと投入したコーヒーを飲む。程よく温く、まろやかになったそれが喉を下ってゆく。ほ、と一息。背もたれに倒れると丁度背後に設置された窓から外の様子が見えた。曇空、ビルの電気が煌々としていて、たまにちかちかと飛行機のライトが点滅して通りすぎていく。わたしに憑いているというおっさんは、やはりガラスには映らない。
隣のソファではオーナーの渡辺さんが(コーヒーを持ってきてくれた)ニコニコニコちゃんと笑っていた。

「名無しさんちゃんスゴかったねー! 最後の和了!」
「そ…そうでしたか?」

『四暗刻大三元字一色』
確か背後のおっさんはドヤ顔でそんなことを言っていた気がする。
こちらとしては言われるがまま牌を切っていただけだし、そもそも初めて触ったのだからすごかったと言われてもなにがなにやら。

「ホントに初めて?」
「あー……なんか、わたし、ツイてるみたいで」
「運が! ビギナーズラックだ!」
「いやあの、」

すごい幽霊が、と言おうとしてとどまった。
そんなことを言ってしまったらただの電波ちゃんではないか? ドン引きされるのではないか? 出会ったばかりというのに心象を悪くしてはあんまりじゃないか? という思考の後、


「ま……麻雀の…神様?が…?」


と繋げた。
が、言った台詞に自らひくついた笑いが漏れる。これはひどい。これは苦しい。寧ろ幽霊のほうがまだ清々しくて信ぴょう性があったのではないか。ていうかビギナーズラックでよかったのではないか。Wで墓穴っ……。思わず目をそむけてしまう。おっさんが肩を揺らしていた。おまえ。

……ところで一向に渡辺さんから返事が来ない。やっちまっただろといやな汗が伝う。名前を呼びと恐る恐る視線を戻してみる。
すると、もともとニコニコしていた顔をさらに明るくさせて、もともと大きかった目をさらに大きくさせて、こちらを見つめてきていた。思わずぎょっとしてしまう。そして身を乗り出して言うのだ。

「す……すごい!!! すごいよ!! 神様! (麻)の!」
「えっ」
「羨ましいよー! なむなむしたら僕もあやかれる?」
「えっ、ちょ、あ、やめてくださいよ!」

こちらに向けて手を合わせて、な〜む〜だなんて拝みだすものだから、なぜだかわたしが恥ずかしくなって止める。おっさんがこらえきれずに吹いた音を聞いた。おもいっきり睨みつけておく。

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「なんで名無しさんちゃんなんだろうね?」

そのうち妙に真面目くさって呟くものだから、「はあ」と生返事しかすることが出来なかった。横顔はなぜか真剣。と思えばそこからぱっとこちらに顔を向ける。

「だって名無しさんちゃん、(麻)やったことないんでしょ、興味も」

だからなんでかな、って思ったの、と渡辺さんは続ける。首を捻る。正直そのあたりは管轄外だし、思い出してみるにわたしが墓参りに行ったこととか、『ヒゲはやだ』とかなんとか言っていただけのような気がする。
どうせ大した理由じゃないだろうな。
ずず、とすっかり冷めてしまったミルクコーヒーを口にしてから、

「さあ…。なんかいろいろあるみたいですよ」

と適当に返した。

「いろいろ」
『いろいろねえ……』

なんであんたまで反応するの。
くしゃりと紙カップを握りつぶした。







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辺ちゃんかきたかっただけ

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