おはなし

□倦怠による38
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朝だ。
小鳥のさえずりが聞こえるし柔らかな日差しも差し込んでくるが、どうもさわやかだとはいえなかった。
昨日の急な夕立でびしょ濡れになりながら帰ってきたツケが回ったのか、見上げた体温計は38度云々をさしていた。途端、怠さを改めて実感する。体も頭も重いし寒いし、とにかく起き上がりたくない。鼻も詰まらせたようで、呼吸するのも煩わしい。夜のうちに朝ごはんの準備を済ませておいてよかった。しげるには悪いが勝手に食べてもらって学校に行かせよう。そんなことを考えながら寝返りをうつ。
ふすまががたりと音を立てて開く。


「名無しさんさん…?」


なかなか起きないのを察してか、しげるが様子を見に来たようだった。


「あーしげるくん、悪いけどお鍋におかずあるから自分でよそってくれる…?」


ちょっとおねえさん食べられそうにないわ、と布団に寝転んだまま台所を指さしながら言うとおとなしく足音が去っていった。ほっとしたのもつかの間に、すぐに戻ってきた。
なんだろうと思っているとひんやりと額あたりに冷たい感触がする。濡れタオルだろうか。


「名無しさんさん具合悪いんでしょ……オレが今日看病する」
「い、いや……学校行きなさい。だいじょうぶだから……」


すん、と鼻をすする。うまく鼻水が戻らないのでティッシュを探そうと手を伸ばすと、先手を打って箱ごと渡された。「ありがと」。
しげるの声色は心配しているように聞こえ、実は若干は楽しんでいそうな、そんなものだった。
ただでさえ学校をサボりがちなしげるである。今日も休まれたら困るし、その理由が保護者の看病だなんてもっとよろしくない。挙句風邪を感染してしまったら本末転倒だ。それに台所に立つこともない13歳にしてもらうことなんてたかが知れている。今みたいにティッシュを渡されるとか額を冷やしてもらうとか。
それはさておき、大丈夫行ってる間によくなるからと伝えるとしげるはのろのろとそれに応じた。
やがて、


「……いってきます」
「はい」


と一言会話したあとでがらがらと戸が閉まる音を聞いて、わたしはようやく意識を闇に手放した。
薬あったっけ、とか、ああ胃に何かないと飲めないじゃん、とか、一応消化にいいものが食べたいなあ、とかという考え事は全てまあいいやと中断された。



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