おはなし

□水も滴るいい…
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ぽつ、ぽつ、……


1滴、2滴、と空から降り注いだ雫は気づくか気付かないかのうちにその間隔を狭め、天気予報も予想しない酷い夕立ちになった。
ほんの一瞬だけ視界を真っ白に染まったかと思えば、その後に身をふるうほどの激しい轟音が響く。
びちゃり、と地面にたたきつけられた雫は、衝撃で四方八方に跳ねまわり踊り狂っている。
不運にも外出中の通行人は、目的地や屋根のあるところに駆け出していた。用心し携帯傘を持ってきた者でも、この豪雨に耐えらないようであった。

そして、


「最悪ッ!!」


アジトの扉を力任せに押しあけると、外で響いているものよりも大きな音を立てて開いた。
履いていたパンプスを脱ぎ棄て、そのままずかずかと中に入り込む。パンツの裾は湿り、ぺたりと足首に張り付いていた。
そしてパンツだけではなく、上のブラウスまでもが見るも無残な姿になっている。
足が向かう先は、もちろんシャワールームだ。

名無しさんもまた、この夕立にやられたひとりであった。しかも、悪いことに傘を持っていないほうの。


「名無しさん、」


声を掛けられて振り向けば、メローネがテーブルに頬杖をつき、こちらをにやにやと見つめていた。
「雨に打たれたのか」と言うのは、三日月のように上がっている口である。
それは実に楽しそうなものだったので、靴下を2つほど顔面に投げつけてやった。
ぴちゃ、と音を立てて直撃したが、メローネは多少驚いた風にしただけで、さして顔色を変えなかった。
むしろ嬉しそうであり、む、と思わず唇を突き出す。


「ふふ、だって、それよりもディ・モールト好い眺めだからな
へえ、今日はピンク? 名無しさんも偶には可愛いのつけるんだ」


はっとして自分の胸元へ視線を落とすと、湿ったブラウスの下にある下着が浮かび上がっていた。
メローネが先ほどからニヤニヤとしていた理由が分かる。自然と眉間に皺。
聞こえるほどに大きな舌打ちを放ち、ぐっしょりと水分を吸ったブラウスを力いっぱいに投げつける。
そりゃあ、こっちの下着姿をも見られないほどに素早く。そして びしゃり!といい音がした。
音のことだけあって、今度は「ぐ、大胆」といううめき声とともにメローネは仰け反った。


そして、名無しさんはその隙にとっととシャワールームに向かうのであった。









水も滴るいい…













下着姿もいいけど、
張り付いたブラウスもいいと思ったのにな!


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