おはなし

□ある朝
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「起きてください」



そんな声が届いて、わたしの頭は覚醒に導かれる。
瞼を開いてみれば、そこには仕事仲間の顔があった。立って、ベッドで上で目を擦るわたしを見下ろしている。
回らない頭で、異常性を認識した。なぜ彼がここにいるのだろう。
ええと、と硬直したままでいると彼がとため息を吐いた。あきれ顔。


「あなた、電話に出ないんですから。
 態々来たんですよ…全くもう」


電話? 枕もとにあった携帯電話を開いてみれば、確かに『着信あり』の文字がディスプレイに表示されていた。
しかしながらうっかりサイレントモードのままだったため、出ることなくぐっすりだったらしい。
それを解除しているうちに、彼がしゃっとカーテンを開け放った。部屋がたちまちに明るくなり、思わず目を細めた。


「さ、支度を。
ボスから指令が入ったので」


ボスから。
その言葉でやっと起き上がる。そして伸び。


「スクアーロがもう下に待機してる筈ですから、速攻で宜しくお願いします」


最後にわたしに目を合わせて微笑み、さらさらと長い髪が靡かせながら部屋から出て行った。
さっ、さっという足音も徐々に遠ざかっていく。
わたしはぼうっとする。ぼうっとするので、考えてみる。
ボスの指令はなんだろう、とか。
目掛けてもらえないかな、とか。
ご飯を摂る暇あるのかな、とか。
けれども、最終的に先ほどの笑顔に行きついてしまい、わたしは大人しく急いで着替え始めた。
頭よりも今は体を動かすべきだ、と思ったのだ。
ティッツァが起こると怖いんだもの。


化粧して、一杯インスタントコーヒーを入れて、飲み干して、わたしは部屋を出た。







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