おはなし

□今日は月が綺麗だったので
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深夜のこと
月が、出ていた
まるで黒インクぶちまけた空間から一点を切り抜いたように、不釣り合いで、爛々としていた
それは真ん丸で白く発光しており、月面の凹凸が作り出す影模様もはっきりと肉眼で確認できた
しかしながら夜闇を照らすにはいささか強すぎるようにわたしには感じる
ちょっぴり雲で覆われていたほうが丁度良いのではないか
子供の時によく、月を真っ黄色に塗り潰して描いていたけれど、どうしてそんなことをしたのだろう
こんなにも白く輝いているのに
あれは心を静めさせ又時めかせ、稀に出る赤い月は心を踊らせ惑わす

わたしは吸い寄せられるように、ベランダからそれを眺めていた
体をすり抜けていく寒さはあるけれど、本能的感覚に抗うことは出来なかった
ただただ、それだけを捉えていた
離さずにはいられなかった
魅入られている

ふと、

「なあお嬢さん、
 こんな時間に何をしている?」

月が、降り立った障害物により視界から消えた
代わりに映り込んで来たものは(逆光であまり細かくはよく分からないのだけど)、黄色だった
それはベランダの縁に立ち、悠々とわたしを見下ろしていた
正直あまりいい気分ではないな

「月を見ていたのよ」
「ほう」

わたしはそれの後ろに焦点を合わせたまま返答した
もう、早くどいてほしい
あんたはどうだっていい
願いが通じたのかどうか、それは興味深そうに相槌を打ち、膝を折り身を屈めた
やっと見えた月は、雲でうっすら覆われていて、先ほどよりも余程良かった




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