† 残 † 番外編

□疑惑
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「勘違いじゃねぇの? オレは何も知らん」

「違いますわ! 今までこんな事一度もなかったのに……。あの娘は良くて私はダメ? 私そんなに魅力なくて? あの娘より?」

「はぁ?」


どうして比較対象がエルだけなんだと思うあまり、自分でも随分と気の抜けた返答をしてしまった。

けれど……自意識過剰なこの女がそう思うのならば、何かロイズの心境に変化があったのは本当かもしれない。

もっともオレはそんな事どうでも良いけど。

とりあえずは。


「魅力なんてロイズに直接聞けよ。オレはアンタの事なんてどうでも良い」


もういいだろう?

気が済んだなら帰ってくれと言わんばかりに突き放すオレに、カルディナは少しだけ躊躇った後、何を思ったかさっさと背を向けたオレの背後からその細い腕を絡めてきた。

そして何を思ったか、クスクスと笑い出したのだ。

気味が悪い。


「おいッ! 放せよ!!」


女に触れられるのは好きじゃない。

例外はあるが、とにかくこの女に触れられる事をオレの中の全てが拒否していた。

だが、カルディナは一向に離れようとしない。

それよりもなお妖艶な笑みをその顔に浮かべたまま、憎悪で顔を歪めるオレを見上げている。

その濡れた唇が、言葉を紡いだ。


「私の魅力が分からないのでしたら、貴方が直接確かめて下さい。それでもあの娘より魅力がないと言うのなら、私諦めますわ。どうか私を、抱いて下さいませ」

「……」

「デューン様……」


動きを止めたオレの顔に手を伸ばし、満足そうに目を細めるカルディナが近付いてくる。


「デューン様……」


白い腕が首に絡みつく。

そしてもう一度、オレの名を呟いた。

その瞬間。


「……クク……」


互いの唇が触れるか触れぬかの瀬戸際で、思わずオレの口から声が零れた。

そしてそれは次第に大きくなって、肩をも揺らす。

そんなオレの様子にハッとしたカルディナは、僅かに顔を上げて訝しげにオレを見つめていた。

だがそれも、すぐに恐怖のそれへと変わる。


「ッ!!」


今さら気付いたって遅いんだよ、カルディナ。

ヤツの顔がどんどん青ざめていく様を、オレは嬉々として眺めていた。

この首に絡み付いた腕を振り払って、逆にこの女の首を締め上げている今。

カルディナの顔に浮かぶ物は、ただただ後悔と恐怖の二つのみだった。


「デュー……さま……ッ!」

「誰がテメェの相手なんかするかよ」


自分でも驚くほどに低く、地を這うような声。

そしてそれだけを告げると、少しでも自分から遠ざけんと言ったばかりにカルディナの身体を突き放す。

不安定なまま投げ出されたヤツは受身を取る事も出来ずに、大きな音を響かせて冷たい回廊の床に叩き付けられた。

だがすぐにこちらを睨み付けてくる辺り、プライドと根性だけはあるみたいだ。


「どうして!? どうして私じゃダメなの!? どうしてあの小娘ばっかり……ッ!!」


しかしこの期に及んでまだそんな事を言える神経が理解出来ない。

オレはうんざりして溜め息を吐いた。


「見くびってもらっちゃ困るな。テメェじゃ勃つモノも勃たねぇ」

「ッ!!」


吐き捨てる様に、でもこれ以上ないくらいの笑顔で、そう言ってやってからオレは静かに自室へと戻る。


「どうしてよッ!! あの女ッ!!」


それでもなお背後では狂気に魅せられたカルディナが何度も何度も声を上げる。

どうして?

そんなのオレが知りてぇよ。

どうしてこんなにも人の心の中に入ってくるんだよ。

どうしてこんなにもアイツの事が気になるんだよ。

教えてくれよ。

教えてくれ。

やがて消えていくカルディナの声を聞きながら、オレもまた夜の帳に包まれた窓の外へと目を向けた。

月が半分ほどに欠けていた。




そして、裁きの夜がやって来る。




fin.


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