† 残 † 番外編
□エル欠乏症
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エル欠乏症
赤い頬に、輝く肌。
零れ落ちそうな笑顔でオレの名前を呼ぶあの娘。
あの姿を見なくなってからたった一晩だけだと言うのに、もう逢いたくて仕方がない。
オレ本当にどうしちまったんだろう。
この足が。
この城にエルがいないと思うと、今すぐにでも追い掛けてしまいそうになる。
この心が。
エルを捜して空を彷徨っている。
「は〜あ……損な役回り」
自室の椅子に背中を預けながら、ひっくり返りそうなほどに、でも思いっきり天を仰いだ。
両手で塞いだ両目には光は届かない。
しかし代わりに映るのは、壊滅したヴィーダへと赴いていったエルフェリスの姿ばかりだった。
こんな事ばかり考えている場合じゃないのは重々承知しているにも拘らず、エルの面影がこの頭から消えてくれない。
「あ〜ッ!! オレも行けば良かったッ……!!」
どっちかと言うとナヨッちぃルイとレイフィールじゃ、何かあった時にこの城を護り切れないという事など解っている。
でも本音を言ってしまえばオレも彼女と共に行きたかった。
アイツを守ってやれるのは、絶対にオレだと思うし。
……。
てか大体、ロイズが何食わぬ顔でエルと出掛ける事自体気に食わない。
アイツ最近ドールとめっきり接触してねぇし!
さらっとクールな顔して愛欲まみれの生活を送っていた様な男がだ!
余計に心配じゃねぇかッ!!
オレの知らない間にエルがアイツの毒牙に掛かっちまうかもしれない。
そんな事になったら……そんな事になったらッ……!?
「あ゛ーーッ!! ……オレ絶対欲求だ……」
一通りあんな事やこんな事まで想像した挙句、溜め息と共にガックリと項垂れた。
闘将一族たる者、ある程度の欲には耐えられる様に教育されているはずなのに、エルの事になるとオレはそれさえも忘れてしまう。
こんなオレを他の一族の者が見たら何て言うんだろう。
でももう誤魔化せない。
天井にぶら下がるシャンデリアも、窓の外に広がる景色も、やたらと輝いて見えて仕方がないんだ。
「……」
そっと目を閉じる。
そこに浮かぶエルフェリスの笑顔に想いを馳せながら。
苦しくて苦しくて、固く目を閉じた。
切なくて切なくて、身が切れてしまいそうだ。
エル、無事に戻って来い。
そしたらオレは、今度はちゃんとお前に伝えたい事があるんだ。
エルがいないとオレは……。
だから頼む。
無事でいてくれ。
「……好きだ……エル……」
色の無い太陽に、初めて願いを込めた。
fin.
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