† 残 † 番外編
□危険な遊び
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●危険な遊び
その日はどの種族にも等しくやって来る。
一年に一度だけ。
子供達が可愛らしい魔物の扮装で「お菓子をくれないと悪戯するぞ」と言って回る、あのイベントだ。
私はそれを人間特有のイベントなのだと思っていた。
ついさっきまで。
しかしどうやら話を聞いていると違うらしい。
「オレ達もやるよなー? ハロウィン」
私のベッドに片肘を付いて寝転んだまま、人懐っこい笑顔でそう言ったのはヴァンパイアのデューン。
そんな彼の問い掛けに、これまた可愛らしい表情で楽しそうに同調したレイフィールもまた、ヴァンパイアの一人だ。
「うん、毎年やってるよね。あのスリルが止められなくてさぁ〜僕病み付き」
「ふーん」
……。
……。
……ん?
スリル?
あれ? と思った。
ハロウィンて……そんな病み付きになるほどのスリルなんてあっただろうかと。
彼らの言葉に一瞬疑問を感じたけれど、楽しそうに笑う二人の姿に私はひとまずその思いを飲み込んだ。
けれど、その笑顔とは反対に、彼らの話はとんでもない方向へと進んでいく。
「たまらないよね〜。何でロイズが参加しないのが不思議なくらいさ」
「そうそう、こう……なんつーか……いつバレるか妙にドキドキしてな」
「うんうん!! ヤバいよねー! 見つかったら僕達灰になるかもしれないもんね」
「てかちょっとちょっと! 何の話してんのッ!?」
明らかに付いて行けない話の内容に、目を白黒させる私を置いてけ掘りにして勝手に盛り上がるヴァンパイア二人組の会話に割って入れば、不思議そうな顔をしてこちらを注目する二人と目が合った。
「やだなぁ、エル。ハロウィンに決まってんじゃん。てかエルが話振って来たんだよ? 忘れちゃった?」
「や……私だってそう思ってたけど、あまりにも二人の話が突拍子も無さ過ぎて……」
「え〜? 全然そんな事無いよ? ずーっと昔からヴァンプの間ではハロウィンの日に人間の世界に素で潜り込むのが慣わしなんだよ? ねぇ? デューン」
「そうそう、完全にヴァンプのカッコしてな!」
「大人も子供も仮装してるからバレないんだよねー」
互いに顔を見合わせて、ヒヒヒとほくそ笑むデューンとレイフィールの姿に、多少の目眩を覚えた。
え?
どう言う事?
「……いまいち意味が解らないんですが……」
少しだけ顔を伏せて、遠慮がちに右手を上げる。
すると突然その腕をデューンに掴まれて、グイッと身体ごと強引に彼の胸の中へと引き込まれてしまった。
「あああああーーッ!!」
それを目の当たりにしたのか、背後からレイフィールの喚く声が木霊する。
しかしデューンはそんな事お構いなし。
ギュッと私の身体を抱き締めると、形のよい唇を私の耳元へと近付けた。
「つまり、ハロウィンの日だけは人間の世界にヴァンプが溢れかえってるってこと。こんな風に……すぐ傍に、な」
触れるか触れないかのところで囁かれると、自然と身体に力が入ってしまった。
そんな私の様子にデューンは一度だけクスッと笑みを漏らすと、そのまま私の耳に口づけを落とす。
「わぁぁああッ!!」
それにはさすがに私も絶叫してしまった。
ガッチリ抱き込まれて身動きが取れない分、言葉で攻撃するしか今は出来ないから。
「離せ! 離せエロヴァンプッ!!」
「そうだそうだ!! ずるいよデューンッ!!」
デューンの足蹴りに阻まれ続けているレイフィールの絶叫に重ねて、私もひたすら喚き散らす事にした。
けれどデューンの腕は緩まる事を知らない。
楽しそうに笑いながら、私の髪を弄ぶくらい余裕だ。
それがまた癪に障る。
でも、ふと呟いた彼の言葉が、私の心臓を貫いて行った。
「憧れてるんだ……手に入らない“光の世界”に……な」
fin.
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