† 残 † 番外編

□光の回廊
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光の回廊





その時はそれがどういう事かだなんてまったく解らなかった。

だが、暗闇で閉ざされているはずの回廊に差し込む光に、そしてその先にある小さな背中に、何故だか心の奥がざわめいた。

太陽を見上げて、溜め息を吐き、太陽を見上げて、力無く頭を垂れるその姿に。


「……やっぱりエル、さっきの話気にしてるのかな」


そんな俺の隣でレイフィールもそう呟いている。


「やっぱりずっと捜してた人がドールになってたりしたらショックなのかな」

「……さあな」


少しだけ苦しそうに眉を潜めるレイフィールの問い掛けに、俺は出来る限りの平静を装ってそう答えた。

残念ながら、俺は人間の心理など理解出来ない。

ヴァンパイアである俺が、人間の心理など理解出来る訳がないのだ。

ドールは常に傍にあるモノとして存在する世界で生きてきた俺には、それに対する人間の考えなど想像も出来ない。

だが、光の向こうにいるエルは明らかに……苦しんで見えた。

俺達に対して背を向けている故に表情こそ読み取れはしなかったが、その背中からは誰の目にも分かるほどの悲愴感が漂っている。


「あんなに落ち込んじゃうなら、ネックレスの話なんかしなきゃ良かった。余計にエルを混乱させただけじゃん! あーもう僕のバカッ」


レイは一気にそう言うと、握り締めた両の拳で自分の頭を何度も小突いた。


「止めろ、お前のせいじゃない」

「だって僕がちゃんと覚えてたら……!」

「誰もそれがエルの捜し人だなんて知らなかった。だからお前のせいじゃない」

「……うん……」


そうさ、レイのせいじゃない。

誰のせいでもない。

もし本当にそのエリーゼとやらがドールになっていたとしても、それはエルの信仰する神が定めた運命の悪戯だ。

誰を責めたりも出来ない。

だが……思うのだ。

俺が見たいのはこんなエルじゃない、と。

こんなのはエルじゃない。

あの時、あんな思いまでして俺が見たかったのは……。


「よーし、仕方ないッ!! だったら元気付けてあげよっと!!」


人が物思いに耽っているというのに、立ち直りの早いレイは大きく両手を振り上げて、それから「ちょっと! ロイズも早くしてよッ!!」と俺の腕を引っ張った。

そしてその後、思いっきりガラスをドンドン叩いてエルにその存在を知らしめる。


「エールーッ!!」


静まり返った回廊に、レイのデカイ声が響き渡って、そして消えていく。

少し驚いた様子で振り返ったエルの顔には、やはりいつもほどの生気は感じられなかった。

隠していても、その焦燥感は拭えない。

だが俺は、回廊の壁に背を預けたまま、事の成り行きを見守るだけだった。

自分から口を挟めば、余計な事まで言ってしまいそうになるから。

とりあえずこの場は上手い具合に笑顔を湛えるレイに任せておけば良い。

少しだけ、そんなレイを羨ましく思ったのは秘密にしておこう。




俺はただ……エルを見守っていれば良い。

見守っていれば……。





fin.



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