† 残 † 番外編

□影の微笑
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影の微笑






ルイには人を惹き付けてやまないカリスマ性があった。

将来はヴァンパイア……シードの頂点に立つ者として育てられてきただけあって、それは誰にも真似出来ない、超えられない輝きを放っていた。

結局頂点に立つどころか、気付くと勝手にどこか行っちゃった後だったりして、育て方微妙に間違ったみたいだけど。



ロイズはそんなルイのとばっちりを受ける形でヴァンパイアの首領となった訳だけど、ルイにも負けず劣らずの才能と統率力をもって立派にその責を果たしている。

まあ一部のおバカなハイブリッド達には手を焼いてるけど、ロイズはかなり頭もいいし行動力もあるし、ロイズに任せておけばひとまず僕は安心出来ると思ってる。



そしてデューンは永くヴァンパイアの世を影で支えてきた闘将一族の最後の生き残り。

最後の一人となってもなお、デューンは唯一の武闘派としてロイズを支え、そして城の平和を守ってきた。

エルが城に来てからちょっと壊れかけてるけど、一応あれでも女には厳しい男として有名だったんだよ。



……今、嘘って思ったでしょ。

ハッキリ言って僕は嘘吐きじゃないよ。



そして僕、レイフィール。

僕にはこれと言って突出したカリスマ性も才能も取り柄もなかった。

言ってみればただのシードだった訳で、たまたま生き残っただけって感じだった。

まあ血筋はシードの中ではかなり良い方なんだけど。

でもそれだけの事で、もうシードも残り四人になってしまった今となってはそんな事何の意味も価値もない訳で。

外見も少し幼い状態で成長が止まっちゃった僕は、密かに色々コンプレックスを抱えていたんだ。

そんな僕でも構わないと言ってくれるドールのみんなには本当に感謝しているけれど、僕は僕の中に生まれた闇とずっと戦っていたんだ。

そこにいるだけで惹き付ける魅力も、誰かを安心させられる様な存在感も、何かを守れる力もない僕。

そんなのってただのお荷物じゃないかって、まだまだシードがいっぱいいる頃からずっとずっと思っていたんだ。

ハンター達のヴァンパイア狩りは日増しに激しくなっていって、シードもハイブリッドも恐ろしいくらいに次々と死んでいく中で、僕に出来る事はないだろうかと、ずっとそう思っていたんだ。



ルイは言った。


「レイはそのままで良いのですよ。そのままでも私はレイが大好きです」


ありがとう。

嬉しかったよ。

嬉しかった、ルイ。

ルイはいつも僕に優しくて、僕もルイが大好きだ。

でも、それじゃダメなんだ。



ロイズは言った。


「自ら面倒事を抱え込もうだなんてしなくても良いものを。自分の成すべき事は自分でも気付かないうちに課されていたりする物だ。焦る必要はない。その時が来るまでは、お前はお前らしく笑っていれば良い」



確かにそうなんだけどさ。

気楽な方が僕だって好き。

でも、今は……僕だってロイズ達の役に立ちたいと思うんだよ。

シードの一人として。



そしてデューン。

何だかんだ言って、実は僕とは一番仲良くしてくれるデューン。

ヤツはこう言った。


「あ? くだらねぇ悩みだなぁ。お前早死にしたいんか?」


……スイマセン、相談する相手を間違えました。


こんな感じで、僕の悶々とする日々はさらに続いた。

けれどある日、突如僕の心に光の差す日がやって来る。

キッカケは僕のドールであるサフィの一言だった。


「レイ様は本当に小悪魔の様ですわね。私はいつもあなたに翻弄されてばかり……。もしレイ様が人間で、父も健在なあの頃でしたら、是非ともあなたを軍師にと切望されたでしょうね。利発で頭の切れるレイ様はきっと、素晴らしい策士になれましてよ」


紅潮したままの頬をさらに赤く染めて、サフィはそっと笑った。



策士?

僕が?




「褒めすぎだよ。それに策略ならロイズの方が張れそうだし……」


思わず苦笑いの僕に対して、サフィはふいに真面目な顔になって言った。


「あら、策略とは一人で張るものではないのですよ。何人もの人間が集まって初めて成立する知略なのです。どんなに素晴らしい策でも、一人では必ず穴が出来ます。それを補う為にも総領を影で支える者も必要なのですわ」


力を込めてそう力説するサフィの言葉には説得力があった。

彼女は元々は、非常に名の知れた軍人の娘だったのだ。

過去幾度かあった人間とヴァンパイアとの戦争においても、彼女の家系は絶えず僕達ヴァンパイアを苦しめてきた。

そして彼女もまた女性ながらその様な戦場に身を置いていた経歴もあって、何かの諍い事が起きた際には良くロイズもサフィに助言を求めていたくらいだ。



策士……考えてもみなかったけど、確かに僕には合ってる様な気がする。

誰かをパシリに使うのとか結構得意だし。



「……ありがとッ! サフィッ!!」

「ええ? きゃ……」


ありったけの感謝を込めて、僕はサフィを抱き締めた。




そんなやり取りがあって、今の僕が存在する。


「レイ様、境界近くの人間の村が急進派によって壊滅した模様です」

「何だって? いつかはやると思っていたけど……ちょっと早かったね。さて……これからどうしようかな」


今日もいつも通り庭園の薔薇に水をやっていたんだけど、そんな時に入ったのがこの一報。

ここからまた僕らの運命は回り出す。




色んな思いを飲み込んで。





fin.



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