† 残 † 番外編

□ガーデン
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「ねーねーエル。庭園の水やり手伝ってぇ?」


偶然回廊で出くわしたレイフィールにそう持ち掛けられて、強引に庭園に連れ出された。


「はい、これ持って」


そしてどこから取り出したのか知らないが、淡いピンクの金属で出来たジョウロを手渡される。

軽いところを見ると、まだ水は入っていないらしい。


「ええッ!? ちょっと……こんな小さなので全部水あげるつもり?」


正気だろうかと疑いたくなるほどに、そのジョウロは小さかった。

こんなのじゃ、バラ一株にたっぷり水をやったらすぐに汲みに行かなければならないだろう。

気が遠くなる前にさっさと逃げ出してしまおうと画策したくなる。


「やだなぁエル。知らないの? これはねぇ便利なんだよ?」


私の反論が余程気に食わなかったのか、口を尖らせるレイフィール。

何が便利なのだと言おうとする前に、私の腕を掴んでぐいぐいと花の前まで引っ張って行った。

そしてジョウロを握る私の手に自分の手を重ねると、何故か楽しそうに笑って美しく咲く花びらに向けて注ぎ口を傾ける。


何も入っていないのに……。


怪訝に思う私の隣で、レイフィールが笑っている。

するとどうだろう。


「え?」


軽いままのジョウロから渇いた花々へと、透明な水が優しく降り注いでいた。

月の光を受けてキラキラ輝きながら、サアアと僅かな音を立てて、遥か遠くの方まで次から次へと潤いを与えていく。


「どうして!?」


驚いてレイフィールを顧みれば、ふふんと自信に満ちた表情をしているレイフィールと目が合った。


「ほーら言ったでしょ? これね、水の湧く魔法のジョウロなんだ。サッと撒くだけで広範囲に水をやる事も出来るんだよ」


無邪気な顔で愛しそうに花々を見つめるレイフィールに、私は今までに無い衝撃と感動を覚える。


「すごい……すごいよ!」


こんなの見た事もない。

本当にこれぞ魔法だと興奮して目を輝かせる私に、レイフィールも満足気に笑っている。

しかし、そんな彼から出てきた言葉は……。


「でしょ? 僕達は闇の生き物。でも、長きに渡って少しずつ培って来た魔法はこんな奇跡も起こせる。皮肉だよね」


そう言ったレイフィールの微笑みはいつの間にか苦笑に変わっていた。

闇の生き物なのにも関わらず、太陽の光を受けて花開く植物を愛でるという事が皮肉だと言っているのだろうか。

そんな事。


「そう? 長きを生きてきたヴァンパイアだからこそ出来る魔法じゃないの? 全然皮肉なんかじゃないよ。素敵な事じゃない! 私達人間には到底出来ないよ」


お世辞なんかじゃなくて、素直にそう思った。

だって、私達人間は基本的に魔法なんか使えない。

努力して努力してようやく手に入れたのが白魔法だ。

けれど、その魔法はほんの一部の者にしか使えない物だし、主に回復や闇魔法への対抗手段にしか効力を発揮しない。

或いは応用すれば植物の活性などにも使えるかもしれないけれど、レイフィールの魔法みたいに自然の理に沿った方法じゃない事は誰の目から見ても明らかだ。


「すごいよ」


念を押す様に、私はもう一度そう言った。

すると一瞬真顔に戻ったレイフィールの表情がみるみるうちに明るくなっていく。


「ありがと! だからエルって好きなんだ」


零れ落ちそうなくらいの笑顔を向けられて、私もつられて笑ってしまう。



と思ったら。



ガバっと抱き込まれていた、レイフィールに。


「ちょっ……と……?」


どうしてこんな展開に?


え?

え?


わけも分からず目を白黒させていると。


「大好き! だから血ちょうだい!! ちょっとで良いから!!」


耳元で大声で叫ぶ声がした。


「ええ? ちょっとッ!!」

「いいじゃんかー! ちょうだい!! 今日こそもらう!!」

「バカッ!! やめてよ!!」

「やだッ!! ちょうだい!」

「こらーーッ!!」


そして……冗談じゃないとレイフィールから逃れようとする私と、嫌だ嫌だと駄々をこねる彼との力比べが始まった。


その結果は。


「調子こくな!! ボケーーッ!!」


私の勝ち。





fin.


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