† 残 † 番外編

□白の血と黒の牙
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「白の血と黒の牙」







「よう、エルフェリス」


良く晴れた日の夜。

私はいつもの様に一人、城内をあちらへこちらへと気ままにブラブラしていた。

姉エリーゼの所在は相変わらず掴めないし、かと言って毎日誰かが退屈しのぎの相手をしてくれる訳でもなくて、暇を持て余した時は必ずと言っていいほど城内を散歩するのが日課となっていた訳なのだが。

ふいに背後から名前を呼ばれて振り返る。

そこには一人のハイブリッドが立っていた。

薄暗い回廊にあっても関係ないと言わんばかりに輝くその美貌に、夢中になる女も少なくはないと噂で聞いたが、正直私はこの男に会いたくはなかった。


「……何か用?」

「ハハ。そんな顔すんなよ」


あからさまに眉をひそめる私に対して、男は両手を広げて苦笑する。

そしてそのままゆっくりと歩を進めると、私の前に立ちはだかった。

それからもう一度微笑むと、悪戯に小首を傾げてこう言った。


「アンタさぁ、ホントに感情が顔に出るのな。オレがそんなに嫌いか?」


その口から出た言葉とは裏腹に楽しそうに笑うその男は、言わずと知れたヘヴンリーだった。

私の目の前で、私の返答を期待する様に長身を丸め、私の顔を覗き込んでいる。

答えなどすぐに決まっていたけれど、私は敢えて無言を貫き通してやった。



この男は嫌いだ。



一目見た瞬間から得体の知れない戦慄を覚えた事、私は忘れない。

そして私達人間をもっとも苦しめている張本人であるという事も。

固く口を噤んだままヘヴンリーを睨み付ける。

それが私の返答だと言わんばかりに。

私もヘヴンリーも無言のまましばらく対峙した。

どちらも目を逸らしたりせず、じっと互いを見つめていた。

しかし程なくして再びヘヴンリーはニヤリと笑みを浮かべると、乾いた声でハハハと笑った。

そしてずいっと伸ばした長い手で、おもむろに私の顎を捕らえる。


「ふーん、なるほどね。アンタかなりの強情だな。さすがは泣く子も黙る聖女様ってとこか」


視界のほとんどがその青い瞳で覆われるくらいに距離を縮めて、ヘヴンリーが挑発的に笑う。


「……放してよ!」


それに対して私は彼を睨み付けたまま、たった一言そう告げた。

けれどヘヴンリーは嫌な笑みを見せ付けてくるだけで私を解放しようとしない。


「放してよッ!! 私に用なんてないんでしょ?!」


もう一度今度は強めにそう言うと、ヘヴンリーは空いた方の腕をも伸ばして、その冷たい手のひらを私の首筋へと絡ませた。

そして顎を掴んでいた手もゆっくりと首の方へと移動させる。

何をするつもりなのだろうと警戒して身を固める私をよそに、ヘヴンリーはいきなり私の身体をガッと掴むと、そのまま回廊の壁へと押し付けた。




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