† 残 † 番外編

□月光
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「なぁ……エル?」

「ん?」

「月ってさぁ……太陽の光で輝いてるんだよな?」

「そうだね。衛星だし」

「不思議だと思わないか?」

「何が?」


庭園のベンチに並んで腰掛けて、ぼんやりと夜空を見上げている時だった。

不意に会話が途切れて、何となく間が持たなくなって新たな話題を探していたところ、向こうから話を振ってきたのだ。



珍しく真面目な表情でそう問い掛けてきたデューンに、私はまた何を言い出したのだろうと内心思いながらも当たり障りの無い返答をしてみたが、それが面白くなかったのか、デューンは少しだけ口を尖らせこちらを一瞥していた。

けれどもすぐに視線を元に戻すと、「だってさー」といつもの調子で続ける。


「太陽の光で俺達は灰になるだろ? ならあの月の光だって本来なら有害なはずなのに、実際何とも無い。不思議だと思わないか?」


ああ、なるほど、と思った。

確かに言われてみればそうだ。

衛星である月は自身では光を放てない。

太陽の光を反射して、夜の闇を照らし出しているのだ。

太陽の光はヴァンパイアにとっては業火以外の何物でもなくて、でもその光を月を通して浴びる分には無害となる。

そこが不思議なのだと言っているのだろう。

でも何でと言われても、私に解るはずが無い。

見た目は平静を装ってはいても、頭の中は大量の疑問符で埋め尽くされていった。


「まあ、有害だったら俺達は最初から生まれてないか」

「……てか話振っといて勝手に結論付けないでよ」


人が必死に考え込んでいると言うのに一人納得しているデューンに思わず突っ込み。

結局そんな簡単な答えで納得するなら、初めから聞かないで欲しいと今度は私が口を尖らせる。

でもそれだけじゃ面白くない。

悪戯心がむくむくと育っていくのを感じた。

そして私は言ってしまう。

自分でも少し意地悪だったかなぁと思いながらも。


「ずーっと浴びてれば日焼けくらい出来るかもよ?」


どんな反応を見せてくれるのだろうと思わず緩みそうになる口元に力を入れて、出来る限りクールにそう言ってみると、デューンは予想通り浮かべていた笑顔を引き攣らせていた。

そしてその笑顔のまま、無言でゆらりと立ち上がる。


「……うるせぇよ」


あ、ヤバイ。

と思った時にはすでに手遅れ。



この後私がどんな目に合わされたかは……あの月のみぞ知る。





fin.


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