超番外編

□補講します
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「カエデ」

「はい」

「カエデ」

もう一度呼ばれて、僕は黙ってしまった。

神田木が顔を上げる。

神田木の目を見て、僕は。

「殴っていいよ」

と、目を瞑った。

緊張の中、肩を掴まれた衝撃で、体がビクついた。

歯を食いしばって、さらなる衝撃に耐えようとした。

その瞬間は訪れた。

体ごと壁に押し付けられて、後頭部に打撃を感じた。

それよりも、もっと衝撃的だった、唇に唇の感覚。

完全にキスだ。

なんの間違えようもない。

神田木にキスされた。

「カエデ」

一度、唇が離れて、神田木が僕の前髪を後ろに撫でて、またキスする。

押し付けられる唇がやわらかく僕を攻める。

「カエデ」

薄目を開いて、神田木の顔が見えた。

大人の男の顔だ。

切なそうに薄く開いた目、それでも、男の自信を失っていない強い光があった。

「わかったか?」

神田木が聞いた。

「え」

「こういうことだって」

僕はわからなくて黙ってしまった。

なにが?とはとても聞きづらい雰囲気だった。

静まり返った室内。

微動だにしない神田木。

僕は神田木を見つめながら、キスは甘いという唇の感触を思い出していた。

頭を冷やそう。

僕はやっとで立ち上がり、トイレに入った。

トイレまで数歩、その間背中に刺さるような視線を感じた。

怖すぎて振り返れない。

とにかく、頭の中を整理しよう。

なんで僕はキスされたんだろう?

ドアに寄りかかり、そのままズルズルと座り込む。

神田木は怒ってた。

僕がはなちゃんに携帯の番号をバラしちゃったからだ。

じゃあ、普通に怒ればいい。

キスする必要はない。

じゃあ、どうしてだろう?

ドンドンとドアを叩かれて、飛び上がりそうだった。

「頼む。出てくれ」

「やだ。」

「いいから、トイレから出ろ」

「やだ。」

「もらしてもいいのか!?」

「やだ!・・・え?なに?おしっこですか先生」

「そうだよ!!この歳でおもらしさせる気か!?」

逼迫した声に、なぜだか苛虐心が沸いた。

「コップにでもすればいいでしょ。僕は今それどこじゃないし」

一瞬、間が空いて、ドンドンと神田木がドアを叩いてくる。

「カエデ!出て来い!お前は何もわかってねえ!!」

「もう後にしてください!」

「カエデ!」

その後も数回名前を呼ばれたけど、鍵を開けなかった。

なぜ、神田木は僕にキスしたのか?

はなちゃんの代わり?

それとも、そういう性癖?

キス魔?

だれでもいいとか・・・結構あり得る。

どれだけ考えても答えはわからない。

そりゃそうだ・・・本人に聞かなきゃ、結局わかんないんだ。

ドアを開けると、そこには空き缶を並べた神田木がトイレの前で座り込んでいた。

「先生」

「先生って呼ぶな」

「だって僕の先生だし・・・」

神田木が笑って髪をかきあげる。

「マジで・・・はなちゃんとオレをくっつけようとすんな」

神田木がヨロヨロと、立ち上がる。

目線が上になる。

手を引かれて、神田木の胸にぶつかった。

顔を両手で持ち上げられる。

唇が密着する。

神田木が体中を締め付けて来る。

全身の自由を奪われ、僕の口の中に神田木が入ってきた。

口の中を舐められて、頭がボーっとする。

「先生」

「先生って言うな」

「ムリ・・・」

一旦離れた唇が首筋を舐める。

「ヤバい・・・勃っちゃうよ・・・」

神田木の唇が戻ってきて、激しくキスする。

「オレもや」

腰を押し付けられて、その硬さがわかる。わかるように押し付けて来る。

「なんで・・・?」

思わず口に出た問いに神田木が答えた。

「好きやから」

「僕を・・・?」

「カエデが好きやから」

頭の中が真っ赤になってた。

触られるところが全部熱を持って、裸になるのなんてなんでもない。

熱くて、すごく熱くて、こんなの知らない。

「ヤバい、カエデ・・・オレ本気でシたなってきた」

神田木が僕の体中にキスして、僕のチンチンを根元まで飲み込んでる。

「もうやめれんかも知れん。ごめんな・・・痛かったらごめんな」

軽く玉を握られて、僕はのけぞった。

それと同時に強く扱かれて、僕はイキそうになる。

その瞬間に、全てが重なった。

熱い神田木のものが・・・僕の中へと埋め込まれて行く。

僕はイキながら、たぶん悲鳴を上げた。

「先生・・・先生・・・」

「先生って言うな・・・悪い事してるみたいやろ」

「先生・・・っ」

「カエデ好きや・・めっちゃかわいいわお前・・」

下半身を引き上げられながら、神田木が僕をかわいいと連呼した。

腰から下がぐにゃぐにゃになって、頭の中が真っ白になる。

短時間に2回も射精させられてた。

「カエデ・・・好きや」

それでも、神田木はイってなかった。

気持ちイイって言いながら、ずっと動いてる。

僕はもうどうでもよくなってしまった。

もう好きにして。

先生の好きにしていいよ。

そう言ったかどうかはわからないけど。

それから、目が覚めると、僕は裸で神田木とベッドで抱き合って寝ていた。

「先生・・・」

呼びかけると、眠ったまま神田木が答える。

「先生って言うな・・・」

僕は仕方なく、名前を呼んだ。

「神田木さん」

呼んで、神田木の目がパチっと開いた。

「カエデ」

神田木が僕を抱きしめてくる。

「イヤやないか?」

その台詞に僕は驚いた。

こんな自信満々な男が・・・頭も良くて、見た目も良くて、講師までしてる男が!

こんな弱々しい台詞を僕みたいに年下にしがみついて、懇願するように聞くなんて・・・

「先生、イヤじゃないよ」

「カエデ・・・オレは、こんな事あかんってずっと思ってて、でもな。ガマンしきれんかったわ。そんな突っ走る歳ちゃうのにな」

「僕は・・・よくわかんない。先生がそうしたいなら、いいと思う」

「オマエ、ほんまようわからんやっちゃな・・・。なんとなくで、オレに抱かれたんかい」

『抱かれた』ってフレーズが頭の中で爆発した。

「カエデ・・・何真っ赤になって・・・」

神田木が笑ってキスしてくる。

かわいいな〜って、神田木が僕の上になる。

「あ、先生」

「先生って言うな」

耳元で、神田木が囁いた。

『イヤやないやろ?』

僕は、うんと頷いて、土曜の朝6時半から、先生と2回目のセックスをした。

「先生・・・!」

「先生って言うな」

神田木が僕の中に完全に入って、ドクドクと鼓動した。

それから、ゆっくりと動き出す。

僕は、初めてだったんだ。

気を失うまで攻められるセックスなんて・・・。

神田木は一回目が出るまですごく長いことに後で気づいた。

ゆっくりとゆっくりと高みへと昇って行く神田木の顔が、僕を見る目が、脳裏に焼き付いた。

これから、僕はこの顔見たさに、何度でも神田木に抱かれる事になる。

夏休みもあと1週間。

補講は今日で終わり。

たった6人の生徒のために、神田木は最後まで授業をやり続けた。

「再試もまぁまぁできてたな。良かった良かった。これに懲りて、後期はしっかりやれよ!」

晴れて、神田木はお役御免。

本当に先生じゃなくなる。

「先生」

「カエデ、オレはもうオマエの先生じゃねえぞ」

「いいじゃん・・・先生だもん」

困ったと笑って神田木が歩き出す。

「総一って呼べば?」

『総一』

と、心の中で呼んでみた。

呼べないよ!!!!

恥ずかしいし!!!

神田木が笑ってる。

「顔赤いよカエデ」

いつものように地下の駐車場に下りる。

「夏休み、どこ行こか?」

言われて、そうかまだ休みがあったのかと思い出す。

神田木と毎日会えなくなるって考えてたから、なんとなく気分が落ちてた。

「なつやすみ・・・」

「そ。オレとじゃイヤか?」

神田木の自嘲気味のせつない目。

「イヤじゃない」

その目を見ると心臓を掴まれた感じになる。

そうだ。こういうことなのかも。

はなちゃんには取られたく無い。

誰にも渡したく無い相手なんだ。

「先生、また学校来る?」

「カエデがまた赤点取ったらな・・・取るなよ?」

神田木が本気でやめてくれよ?って顔してた。

う〜ん。
ごめん。
たぶん取るよ。
冬休みが無くなったらごめんなさい。

でも、まだ外は灼熱。

海にも行けるかな。

「先生、海行こうよ」

「外で先生って言うな」

end
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