未来ノート

□突然帰って来た男
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代表招集の練習後、監督からの叱咤激励の後、チームは現地解散。
綿貫にせっつかれて、オレはシャワーも浴びず、綿貫と練習着の格好のままタクシーに乗り込んだ。
「タツト、ホテルなんて取って」
「無いな」
「デスよね・・じゃ、もしかして荷物は・・?」
「無い。スーツはホテルでレンタルする」
見ると、本当に何の荷物も持っていない。
スマホに財布とパスポート。
パスポートが無ければ、『近所へ買い物か?』って出で立ちだ。
「・・・尊敬しますよ。人間の大きさに」
「あ、練習着・・洗ってお前のうちに置いといて」
「はいはい」
呆れ顔で笑うと、綿貫は胸の前で腕を組んで、目を閉じた。
「やっぱ・・疲れてんだろ?なんで無理して来んだよ」
小声で非難すると、綿貫が目を閉じたまま答える。
「ここで言って、いいのか?」
思わず、背を正して綿貫を見ると、薄目を開けた綿貫がこっちを見た。
「ナギ」
「ダメダメダメダメッ。言うな・・!言わなくていい」
全否定で両手を広げて降参の合図を出すオレに、綿貫が苦笑いして、また目を閉じた。
「お前見てると・・安心する」
そう呟いて、オレを恥ずかしくさせた本人は、瞬時に眠りに落ちる。
こうして、何年経っても・・・自分ばっかりが、いつも動揺させられてる気がする。
綿貫の精悍な顔つきを、横目に盗み見てオレは溜め息を吐いた。
勿論、イヤな溜め息じゃない。
どうして、こんなに好きなのかと自分の気持ちに惑う溜め息だ。
どうして・・アンタだけなんだろ。
オレん中にいるのは、いつだってアンタだけなんだ。
そして、それが光でもある。
恋い焦がれ、手が届きそうで届かない場所にいるアンタが、時々こうやって振り向いてくれる。
それに甘えたくて、必死に手を伸ばして、掴めるのはアンタのシャツの裾くらいだけど。
それでも、もっと欲しくて、足掻いて足掻いて、足下に跪くように、アンタに縋り付いて見上げるんだ。
それでも、女みたいに素直に「オレが好き?」なんてストレートには聞けないけど、見下されたまんまなんて柄じゃないから、オレは「追ってくから。オレはまだ走れるから」、だから諦めないでくれって綿貫に訴える。


「おい」
綿貫の声に目を開けると、既にタクシーはうちの前へ着いていた。
一人暮らしを始めて4年になる。
引っ越した先は簡素な作りだが1LDKのマンションだ。
ベッドルームとリビングを分けられるのが最大の利点だ。
慌てて車から降りると、既に支払いを済ませたキングがオレの荷物を持ってマンションへ歩き出す。
その後ろ姿に追いつくと、綿貫の肩からエナメルバッグを奪い返す。
「お前・・ガーガー寝てたぞ」
「寝てましたネ・・。アンタが隣に居て、気が抜けた・・」
「もっとよく寝れるようにしてやろうか?」
機嫌良さそうに笑う綿貫が、指の長い手で、オレの頭を撫で回す。
「そんなん・・遅刻するよ・・披露宴」
素で、がっかりするオレの顔を見た綿貫は、エレベーターに乗り込むと直ぐに唇を合わせてきた。
数秒で浮遊感は止まり、エレベーターのドアが開く。
熱い唇の余韻をふんだんに残したまま、気持ちだけが取り残される。
「シャワー浴びて・・・着替えて・・Jホテル(披露宴会場)までタクシーで20分くらいか・・」
逆算して今から1時間半後にはここを出なければいけない。
ガチャリと部屋のドアの鍵を開ける。
その音に被って、綿貫が「なんだ割と時間あるな」と明るい声で呟いた。
そして。
玄関のドアを閉じたと同時に、綿貫がシャツを脱ぎ捨てた。
「ちょ、何脱いでんですか・・」
素で綿貫に恐怖を感じ、全身の血の気が下がる。
「何ヶ月ぶりだと思ってんだよ。ほら脱げ、全部脱げ」
「待て!ここは無しだろ!っていうか・・時間ねえだろっ」
「オレに用意するもんなんかねえの、わかってるだろ?」
確かに着の身着のままで、スペインから戻って来たこの男にいったい何の支度が出来るだろうか?
「こんだけ独りにさして、我慢させてるってオレだってわかってる」
綿貫が背中からオレを抱き締めてくる。
「わ・・ちょっ待って」
勿論、抱き締めつつ、手は既にシャツの中を弄っている。
有りと有らゆる場所を撫で摩り、やっと帰って来れたと実感する綿貫。
「ナギ。こっち向け」
顔だけ綿貫の方へ振り返ると、綿貫の鋭い眼光とぶつかって思わず視線を逸らしてしまった。
「なに・・避けてんだよ?」
顎を取られて、無理やり合わせた唇を吸われる。
「んっ・・・ア!」
「ナギ・・なんでお前は・・」
「だって・・、んな目で見られたら・・」
凶暴過ぎる目に、欲望の色を乗せた綿貫の視線。
思わず、背筋を戦慄かせたナギは、その先に与えられるだろう快感に怖じ気づき、綿貫から視線を逸らしてしまった。
その間も綿貫の手は身体中を這い回り、ナギを裸に剥いていく。
玄関でヤられて堪るかと、なんとか少しずつ逃げるが、最後は這う姿勢で腰を掴まれた。
刷り下げられたジャージ、下着の中で硬く奮い立つ性器に綿貫の指が絡み付いてくる。
「う・・・!ダメだっ・・・てっヤバいからッ」
どんなに抗議しても綿貫が聞く耳持たないのは長い付き合いで重々承知しているナギだが。
綿貫に勃起を握り込まれた瞬間、パズルの鍵が合ったように・・・ナギの双玉がヒクヒクと痙攣し、全ての解放弁が開かれてしまった。


やばい・・!!


思わず噴き出す寸での所で、綿貫の手ごと、勃起を強く掴んだナギが息も絶え絶えに懇願する。
「ま、待って・・。ホント、センパイ待ってって・・」
「待つ訳ねえだろっていうか、こういう時にだけセンパイって呼ぶな。お前卑怯だろ」
「ダメだって!もう・・ホント、マジで出るからっ」
羞恥心を捨て白状したナギだが、それが余計な一言だったとすぐに理解するがもう遅い。
「握っただけでか?」
「うっ」
ナギの芯を握った綿貫の手が無理やり上下に動き出す。
「オレが握ったせいでか?」
「ふ・・あッ・・あ、あぁぁ・・ッセ、ンパイッ・・!」
声を震えさせ、ゆるく扱く綿貫の手に陥落させられたナギの昂りから、真っ白な粘液が飛び散った。
「お前・・至上最高に・・速えーぞ」
もう止められない快感に腰が奮える。
吐き出された濃い精液の匂いがその場に立ち込め、その温い体液を綿貫の指が床から掬い取る。
まさに・・秒殺。
だが、もう出てしまったものはどうしようもない。
触られただけでイク恥ずかしさより、興奮が勝っていた。
密着する背中がもどかしい。
こんなに肌を合わせたのは本当にいつ以来だったろう?
ただキスされて、そこを触れられただけで・・。
どうしようもなく、感じた。
センパイが・・タツトが、ここにいる。
それだけで、心臓が締め付けられる程嬉しかった。
そのタツトが、今自分を組敷いている。
それだけで、肌を合わせただけで達する程、自分はタツトを欲していた。
その事実。
離れていた分、我慢していたものが溢れた。
こんなにも、一人の人間に溺れている。
それが、こんな風に身体に『現れる』なんて、思いもしなかった。


「すぐ、挿れるからな」
綿貫の濡れた指が、バックからナギの熱い肉襞を掻き分ける。
「・・・!!」
声にならない衝撃を受けて、ナギは綿貫の腕にしがみ付いた。
肉孔を乱暴に掻き回されているのに、それが綿貫の手だと思うと益々興奮してしまう。
「も、いいよっ・・入れろって・・!」
「ナギ・・お前、ホント卑怯だぞ・・。そうやって煽って・・オレまで速攻でイカせる気か・・?」
笑ってるのに、綿貫の動きに余裕が無い。
「入れるからな」
そう言い捨てる一言が、綿貫の我慢が費えた事を示していた。
まだ硬い肉壁を時間を掛けて解すのを諦め、赤黒く充血した肉棒をナギの肉孔へ、グっと押し付けた。
「あ・・センパイ・・ッ」
応えるように少しずつ開いていくナギの濡れた肉壁。
綿貫は、自分の体重を乗せて・・・ズルリ・・・と、ナギの中、奥深くへ欲望を押し込んだ。
「か・・・は・・っ・・ハッ・・ハッ・・ハッ・・!」
ナギは痛みと快感の両方の衝撃に呼吸を乱し、綿貫の服の袖を力一杯握って耐えた。
貫かれた肉孔は、綿貫を迎え戦慄くと同時に締めつけてくる。
その密着度に綿貫の意識も一瞬、朦朧となった。
久しぶりのナギとの性交で、一気に綿貫の頭の中に脳内麻薬が溢れ出たのかも知れない。
目眩がする程の快感の中で、綿貫は自分を叩き起こした。
「ナギ・・大丈夫か?・・痛かったろ」
小刻みに奮えるナギの身体を、挿入したままゆっくりと起こし、自分の上に座らせるように抱き上げる。
「うあっ・・・!こ、これ・・すごい深くなるってば・・っ」
バックから貫かれたまま抱き起こされ、綿貫の上に座らされたナギは、あられもない自分の姿に、僅かな理性を取り戻し、綿貫を非難した。
「アッつ・・・動くなって・・出るだろ・・。出たら・・すぐまた出来ねえから」
「嘘つくなよ・・。そう言ってオレを何回騙して来たと思ってんだよっだいたい長いんだよっ一回が長過ぎんだろっ」
「知るか。あー最高。ナギ好きだ。好き。持って帰りてえ。マジでこのまま帰りてえ」
「このままって!ふざけんなっどうやってこのまま帰れんだよっ」
そこで普通に黙った綿貫に、ナギは(どうしたんだ?)とそっと振り返ると、綿貫が目を閉じて何かを考えている。
「わかった。自家用機買えばいいんだろ。そしたら、ヤってるうちに着くもんな」
その淡々とした答えに、ナギの頭が一気に冷めた。
「いや・・アリエナイ。アリエナイ。絶対アリエナイから・・。オレ、庶民の生活で十分だから・・頼むから変な目標持つなタツト」
タツトと呼ばれて、綿貫が未来の妄想から還ってくる。
「もう動いても良さそうだな・・?」
「アッ・・タツト・・激しく、しないでクダサイよ?」
ゆっくりと腰を振り出す綿貫の膝にナギが掴まる。
「バーカ。セックスしたからって試合に響くような身体作ってねえよ。オレの心配より自分の心配しろよ・・中、痛くねえか?」
そんな気遣う台詞言うなんて、それこそ卑怯だと、ナギは思いつつ返事する。
「・・アンタに、挿れられて・・痛い訳無い」
伏し目がちに呟いたナギの顎を綿貫が取ると、激しく唇を奪った。
ナギの口内で舌を混ぜ合わせ、縦横無尽に暴れ、唇をしゃぶり尽くした後、ゆっくり少しだけナギの腰を持ち上げると下から綿貫が突き上げていく。
「ヒッ・・・あ、あ、あ、あ、・タツ、トッ・・・アアッ!」
そのうちに、ナギが綿貫の突き上げに堪らず逃げるように膝が立ってくると、綿貫は、繋がったまま一気にナギを立ち上がらせ、壁にその身体を押し付けた。
「ヒッ・・ヤ・・もう無理っタツトっ死んじゃう・・オレ・・死んじゃうっ」
「どこか死にそうなんだよ・・?こんなに締め付けてくるくせに・・身体はもっと欲しいって言ってるぞ」
「そんな、の・・アンタの・・妄想っアーーーッキツいって・・う、う・・ツッ・・!!」
ビクビクと身体を撓らせ、ナギが何度目かの放出を果たす。
「ダメ・・もう立ってられない・・タツト・・力入らないって・・」
「わかったから、キスしろ」
「ん・・んっんっ・・んっ・・」
唇を合わせたまま、綿貫が執拗にナギを突き上げる。
「帰って来たら、続きヤるからな・・?」
捨て台詞を残し、やっと白濁を射出した綿貫は、自分の精液に塗れたナギを解放し、ベッドに運んだ。
「始めからここでヤれば良かったんだよな・・」
当たり前の事を口にした綿貫に、仰向けに寝かされたナギが思わず噴き出した。
「センパイ、大好き。オレ、ずっと、ずっと好きなんだ。離れても、会えなくても・・好きなんだ・・」
まるで、それは綿貫に告白した台詞というより、自覚した、自分自身が再認識した、そんな言葉だった。
「じゃあ、近いうち結婚しよう」
その台詞にナギは目を見開き、ガバっと腹筋で起き上がった。
「え・・?」
「結婚、するからな」
真顔で言う男の顔に、思わずナギは引き攣り笑いして聞き返した。
「オレ達二人でって事?」
「・・当たり前だろ」
そのまま、ナギは何も言えなくなり、綿貫が発する「なんか文句あるのか?」という重圧にその場の空気が重くなる。
「結婚ですか・・」
再度確認すると、両手をズボンのポケットに突っ込んだ綿貫が
「・・結婚ですよ」
と、棒読みで答える。
再び、沈黙に包まれた空間で、ナギは右手を差し出し
「あの・・お風呂どうぞ」
と、綿貫へ退室を促した。
「ああ、そうだな」
思い出したように、ベッドの端に座っていた綿貫が立ち上がる。
ナギも再び、ベッドにゆっくりと仰向けに寝転がった。
と、不意に綿貫が振り返った。
「お前な。するからな。結婚」
そう言って、指差されたナギは咄嗟に、
「ハイ」
と返事していた。
その返事に満足したらしい綿貫が、鼻歌交じりに部屋を出て行く。
仰向けに、天井を見上げるナギは・・。
静かに目を閉じ・・身じろぎ、横向きに丸くなると。

結婚って・・なんだ!?

と身悶えた。
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