超番外編

□ユメノオトコ
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オレの人生なんて、普通に終るんだと思ってた。

つい昨日までは。

ただ毎日働いて、ただ毎日残業して、給料が出て、疲れた首、ネクタイ緩めて
ビール買って帰る。

日常。

毎日の景色も見慣れたもん。

どこも知らないとこなんかない。

ここがオレの居場所で、オレのプレーフィールド。

ルールも把握。ここには何も怖い事も無い。

そうやって淡々と生きてる。

自分で生きていける。そんな大人になった。

つもり。







ねえ、君達は。覚えてる?

自分がどんな男になりたかったかって。


ホンの少年だった頃。

オレはどんな大人を夢見てたっけ?



残業を終え、疲弊した体で駅へ向かう。

その大通り、真夜中の繁華街と交差する道。

チラと見た視線の先。

目を顰めたくなる程のネオンの瞬きの中、合わされた瞳。

フイの偶然に体の真ん中、頭からズブリと針が刺さる。

膝が曲がらなくなる。

体ごと地面に刺し抜かれたような感覚。





”中澤 千垣(ナカザワ チガキ)。 強い男になりたい。”


それは、どんな男を夢見ていただろう?

スポーツ選手?消防士?警察官?



ケイサツカン?



黒いスーツの集団が彼の周りへはびこる。

ピンと張った背中。緩くカーブする黒髪は後ろへキッチリ流されている。

耳の後ろ、カーブする髪のライン。

襟足を遊ぶ毛先が白いシャツの襟に乗っていた。

少し束になる感じが同性でも色っぽかった。

彼一人、一度として頭を垂れる事は無いその姿に、息を飲んだ。

こんな男が存在する。

その現実に打ちのめされる。

もし、絶世の美女がオレの前に現れたってここまでの衝撃は無いだろう。

人間一人にこれだけ、打ちのめされる。

そんな事実に、生まれて初めて直面したのだ。


一歩も動けずに、伏し目勝ちに彼の乗り込んだ車を見送った。

真っ黒な窓は、無言で、派手なだけの電気を映し出していた。

車が通り過ぎる。

すると、まるで、この辺り一辺の緊張が解けたように時間が動き出した。

そこに居た誰もが彼らを注目し、固唾を呑んでいたような緊張。

それが過ぎ、一瞬の過去を忘れ去るためにバカ騒ぎを始める。

オレも体からホッと力が抜ける。

「警察なんかとは・・・真逆の人間だよ、アレは・・」

自分が呟いた声が耳に入って、頭の中で噛んで、それから笑いたくなった。

頬がニヤケるのを抑えて、眼鏡を押し上げる。




バカな考えが浮かんだ。

あの男の隣に立つ気分ってのはどんなもんなのか・・・と。
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