超番外編

□ダカラ
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ドキッとする。
あの背中を曝け出されて。

お前にだけ見せてやるって言うこの男に
誰が逆らえるだろう。

ああ、お願いだから。
一生のお願いだから。

オレを。
オレを、体だけで、オトさないで。
気持ちイイ事だけで、アンタに溺れたくない。

本当に。
本当の気持ちを。
アンタから引き出せるまでは。
オレは、アンタの背中に爪あと一つ残せない。

シノノメさん。
オレ、ココロからアンタに溺れたい。
ねえ、アンタのココロ、オレにちょうだい。
そしたらさ。
オレ。
我慢なんか一つもいらないで。
なんも意地なんか張らないで。
アンタの腕にすがり付いて泣いて。
なにもかも預けるから。
命も、体も、心も。

シノノメさん。




ねえ、だから、オレを好きだって言ってよ
シノノメさん。








「外は暑そうだな」
シノノメさんが薄いストライプの入ったスーツ
姿で、ホテルのロビーで足を組んでいる。
駅からの10分の道のりでオレの背中は汗をか
いていた。
「都内の暑さは異常だもん」
パタパタとTシャツをはためかせると、シノノメ
さんがニヤリと笑った。
「シャワーを浴びて行くか」
「え・・・」
キリリと鋭い瞳をその瞬間柔らかく歪めて笑うその
顔がどんなに貴重かオレは知ってる。
いつもはクスリとも笑いもしないその顔が、どんな
にオレの心臓に悪いか。
バクバクと鳴り出す心臓に気づかれないように、オ
レは慌てて、ナニイッテンノって口にした。
シノノメさんは、そりゃ面白そうにオレを見て笑っ
てる。
そう。
この人はさ。
オレを面白がってる。
あきらかに。
バカにされてんだよな。ガキだからさ。
なんせ、昨日今日、ツッコマレル事を覚えた体だ。
そりゃ嬲りがいがあるんだろうな。

「さてメシでも食いに行くか」
シノノメさんが立ち上がる。
オレもその後へとついて歩くと、シノノメさんは
エレベーターの前で止まる。
「え、ここで食うの?」
「ああ、いい酒置いてるんだ。個室もあるしな」

コシツ・・。
なんとなくその響きに、エロい感じがするのは
オレだけなのかな・・?
なんとなく大人っぽいエッチな雰囲気にオレは
シノノメさんから顔を背けた。
「期待してんのか?」
その顔をこの男は見逃さず、すかさず突いてくる。
「バカじゃねえのっ」
オレは俯きながら吠えた。
どーせ負け犬。
やっと着いたエレベーターのドアが開く。
シノノメさんの腕がオレの背中を軽く押した。
促されるままオレはその箱へ乗り込む。
これも言わば、コシツだ。
そう考えると、バカな事に気づいた。

シノノメさんのせいだ。
ぜんぶ。
アンタと一緒だから何だって、オカシク感じるんだ。
いつもはただ平然と通り過ぎることもモノも全部が、
シノノメさんに触れるモノ全て、場所が全て、オレ
が特別に感じてるだけで。
世界が変わったわけでもなんでもない。
大人の世界だからとかカンケイ無い。
オレがガキだからとかも違う。

アンタが目の前にいるからだ。
それだけなんだ。
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