超番外編

□ソレカラ
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あれから。

どんだけ昼が来て。
夜になって、朝が来て。
また。

オレは何度も何度も、ドアを開ける。

少しの物音。
そこに、ランが恥ずかしそうに立ってる気がして。

タダイマって。
気まずそうな顔で、帰ってきたって言って。



そしたら。
そしたら、オレは一発殴ってやるんだ。
で、今度はオレが出てくって啖呵切って。
で、ランが泣いたら。



全部許して、抱き締めてキスしてやろう。








とんだ、夢みてる。
カミジョウ セイショウ。17歳。




ここへ引越してきて、一週間もしなかった。
新築の2LDK。

酔っ払ったランはいつも、外見たがって、
ベランダに出てく。
「セイショウ。なんで星って光ってんだ?」
片手には缶ビール。
ベランダの手摺に、首乗せて思いっきり空仰いで、
ランは目細める。
「知らねえ。ガス?」
窓際にオレは座って、その姿見てた。
外の街灯に照らされたランのカラダが青白く見えてた。
「オマエ、ちゃんとガッコ行ってんの?」
笑いながらランがコッチに顔向ける。
「行ってるっつーの。ちゃんとマジメにやって、んで。
ちゃんと、オレ、ランの店で働くんだから。使えねえ
なんて思われたくねえもん」
ランは、薄く笑って、ビールの缶を放ってくる。
「ワッ投げんなよ!」
「ビール」
ランがオレに冷蔵庫を指差した。
「ハイハイ。ったく酔っ払いめ」
オレは部屋に飛び散った水滴拭いてから、もう一本
缶を冷蔵庫に取りに行く。
流しに、空き缶置いて、冷蔵庫の中見て、ランの好
きな銘柄が無くて。
「ラーーン。もう紅いのねえーぞぉー」
野菜室開けてみても、やっぱり無い。
「ラーン。これでいい?」
「なんでもいいよ」
って。
言うはずのランが、そこにいなかった。

開け放したベランダ。
青白いライトだけが誰もいないベランダを照らしてる。

そこへ凭れかかってたランの姿が無い。

一瞬、ゾッと悪寒が走って、オレはベランダに飛び
出して下、見下ろした。


真っ暗な木が風で揺れてた。

「ラーーーーン!!」



星が少ない。真っ暗な夜だった。




























ランはそれっきり、姿を消す。


夜に溶けたように。
ベランダから、いなくなってしまった。



それからもう2週間が経った。

ここは三階で、死ぬような高さなんかじゃない。
あの後、急いで下へ見に行ったが何もなかった。
忽然とランは消えて。

さよなら、も無し。
アンタらしいって言えばらしいけど。
何するんでも、なんか最後諦めちゃってるみた
いなアンタ。
もうどうでもいいから、どこでもいいから逃げ
出したかったんじゃねえの?
少し困ったみたいな顔して笑うアンタを、オレ
だって、ちゃんと好きだったんだ。
愛してた。
だから、待ってるよ。
待っててやりたい。
どうせ、傷ついて帰ってくるんだろ?
また、なんもかんもイヤになって、今度こそ、
オレのとこが一番いいって、帰ってくるんだろ?
なら、オレここにいてちゃんと怒ってないって
教えてやんなきゃいけないし。
だから、どうか、オレをキライになって戻って
来れないなんてコト、ありませんように。
だって。

オレは、オレ達は。

アンタが泣いてゲンと別れた後だって。

キス、したじゃん?
オレとキスしてくれたじゃん?
オレと抱き合ったじゃん?
何回だって。

オレは待つよ。ラン。
待つのは得意なんだよ。
誰も居ない部屋は嫌いだけど。
帰ってくる人がいる部屋なら我慢できる。
ラン。
怒んないから。
殴ったりなんか絶対しないから。
頼む。
どうか、帰ってきて。
また、笑って。
やっちゃったって顔で。
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