超番外編

□その最果ての地で
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小さな手に。

がむしゃらに掴んで投げた。

一握りの砂。

誇りまみれに転がされ、腹を蹴られた子供の頃。


その一握りの砂が、オレを変える。





ずるくなって。

自分を強く見せろ。

誰にも弱みを見せず。

勝ち上がれ。












上条 絃(カミジョウゲン)。28歳


オレは最愛の人間を失う。









なぜ。
オレが泣かなければいけないのだろう?
なぜ。
ランはオレから離れていくんだろう?
オレを愛してるランが。
オレに会えないと酒ばっか飲むランが。
オレに抱かれると、泣きながらオレを好きだと言ってたランが。

どうして。


・・・離れられるワケが無い。
離れていられるワケが無いんだよ。ラン。

オレ達が、こんな事で別れられるワケが無いんだ。












ランについて。








ランの家は、外見は古いカントリー調の作りで、始め見た
時の感動ったらなかった。
まるで冒険の目的地に辿りついたみたいな、この家の中に
は、きっと宝箱とかがあるって、勝手に思い込んで。
だけど、その庭で遊んでるランとランのお母さんの前に、
オレはどうしても出て行く事ができなくて、何度、壁を
行ったり来たりしてただろう。
まるで、絵に描いたような幸せそうな親子。
絵本の中の世界。
オレが欲しかった世界が漠然とそこにあった。




ある日。


家にやたらと人が来て、今じゃ影も薄い従兄弟共にオレは
こづかれて、逃げてまわってた。
大人はオレ達が仲良くしてるって思ってた。
だけど、オレは真剣にアイツらが嫌いだった。
何かあればすぐ、母親にくっつくアイツらが。
どうしてそうなったのかはもう忘れた。
とにかく、髪を掴まれて、泣きながらソイツを突き飛ばし
て、オレは塀と木の間を伝い昇ったんだ。
そこに。
「なにしてんの?」
透き通るような細い声だった。

ラン。
ラン、オレがオマエをどう思ってたかなんて、知らないよな?





黒目勝ちのキリッとした目。
そこに、オレが自分を見つけて、そんな毎日がどんなに
嬉しかったか。

ラン、白状するよ。

オレが先にオマエを好きになってたってコト。

ずっと。
恋してた。

敵わない想いだと。

吹っ切るコトも不可能で、一生引き摺っていく恋だと。




そう覚悟した頃は、今は遠い・・・。





「ラン。鞄、持って」
オレンジと茶色のグラデーション。
窓の外を見てた派手な頭がこっちを振り向く。
「なんで、オレが?」
そう言いながら、片手を差し出してくる相棒。
「疲れた。オレが電車好きじゃねーの知ってんだろ」
車両の入り口近く。ドアに寄り掛かるラン。
その向かい。
オレは両手でつり革に掴まる。
「ゲン。なんか近い」
グラグラ揺れる電車の中でつり革がしなる。
少し顔を背けてランが言う。
ドキっとする。

無意識に近づきすぎてた?

でも、その態度が、イヤみたいでイヤじゃないって感じで、
余計に絡みたくなる。
肘を曲げて、顔を寄せると、ランが眉間を渋くさせる。
それでも、負ける気は無いらしく、真正面から見返される。

その目の中にオレが映ってる。

オレしか見てない目。
オレだけを真っ直ぐ受け入れてる目。
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