超番外編

□その時を夢見て
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「ラン」
目の前に現れた少年が、オレの事を気安く呼んだ。

少年。



あの頃の、毎日が退屈で刺激的でどうでもよくって。
ただただ、何かを貪りつくしてたあの頃。




ゲンと毎日ベッドにいたあの頃。




あの頃の、ゲンと同じ顔で・・・。



「らん」
ニッコリと笑うクリっとしたあの目、あのあどけない顔。

「げん・・・?」

これは、ユメカマボロシカ?


シガ ラン 。オレは、今年28になる。







10年。






オレは変わらずゲンの隣にいる。と、言ったら嘘だ。
ゲンは、ワケの分からない、デッケー会社に通って、毎日遅くまで働いてて、オレの部屋へ来る暇も無い。
いつまでも、親元にいるのも鬱陶しくなって、オレは家も出て、ゲンがもうあの塀を越えて来る事も無くなった。
だから。
オレも、ゲンがあの塀を越えて来るのをもう待たなくてよくなった。
高校を卒業した後は何年かフラフラしてた。
大学やら専門学校なんて選択肢はハナから無かった。
でも、入りびたりの「ラスタ」で、バイトしたりして、料理出来るようになって、ついに二年前。
小さなカフェを開く事が出来た。
モチロン。
親の出資と、ゲンからのプレゼント(業務用キッチン)と、今でも仲良くしてるセージからの紹介で特別低金利(銀行がクソに思える)で金を借りて、今に至る。

この辺りじゃ繁盛してる方だ。
夜にしか来れない連中は、深夜営業を希望してるが、オレが夜遊べなくなるからやらないでいる。
そんな訳で、昼にしか喰えない、みたいなレア感が客を呼んでいるようだった。コーヒーの味もそこそこ。


今日もいつものとおり。
昼に、ゲンからの時々しか来ないメールをチェックして。
また、空のメールボックス閉じて、店を開ける。
ふつうに。


その店先。
ちょっとシャレた、レンガ調の歩道。
その歩道の手摺に寄り掛かり、生意気にズボンに手を突っ込んで、紺のボンボンガッコの制服を着崩した、あの、ゲンが
・・目の前にいた。


大好きだった、生意気な笑み。
小悪魔な目。
今じゃ、アルバムの中のそれが。
それが、目の前で、瞬きして、髪かきあげて、話しかけてくる。

「ラン。腹減った」
息を呑むオレ。
どんどん近づいて来るゲン。
「ゲン・・・!?」
「ん?」
小首傾げて、クスリと微笑む。
あの頃のまんまのゲン。

ウソ・・・・。
オレって、ターーーイムスリップ?

なんてバカな事考えてるうちにオレはゲンにキスされてた。







本日、臨時休業。
カランッ。





「タオル、ある?」
ゲンがオレから抜き出す時、息荒くしながら言った。
ゲンは出す量が多くて、いつもティッシュじゃ拭き取り切れない。
オレは当たり前みたいに、ベッドの横のタオル渡す。
「・・・・腹減ったって・・・こういう事かよ・・」
昼寝専用のシングルのベッドの上、うつ伏せになって文句言ってみても、遅い。
「ごち」
ニカッって笑うゲンが裸で、冷蔵庫から天然水のボトル持って戻って来た。
オレが寝てる横。
ドカって座って、水を飲む。

気が動転してたってのもある。
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