超番外編

□その壁を越えて
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ガキの頃。



家の裏の雑木林。
小さな冒険。
その向こうに何があるのか、どこへ繋がってるのか。
クモの巣を抜け、木の枝を潜り、着いたのは灰色の
高い塀。
呆然と見上げていると。
どこまでも続くようなその塀の向こうに、自分と同じ
くらいの歳の子供が顔を出した。
「何してんの?」
聞くと彼は返す。
「逃げるんだ。殺されちゃうから」

その時のオレには、この灰色の壁が全て悪いように
感じてた。

この壁さえなければ。

そんな思いで、この壁に穴を開けようと思った事は
数知れず。







シガ ラン。17と4ヶ月。ボンボン学校在籍。








「ラン!」

その壁は今、低く脆い。
だけど、その向こうに住むあのあどけない顔は今も
変わらない。
「ゲン」
その重い響きの名前に似合わない、笑顔が部屋の窓
に現れる。

らしくもなく、机にかじりついていると、ゲンはい
つものように、窓からウチへ入って来た。

灰色の壁の向こうの豪邸の王子サマは、お忍びでオ
レの部屋へ遊びにイラッシャル。


オレがゲンを守りたいって思ったあの頃。
泣きながら壁よじ登るゲンの手を引いたあの日。

全ては、今。

こんなキモチにさせてるって、カケラもわかってな
いんだろうな、コイツは。

ゲンはオレのベッド占領してそこらにある漫画読み
出す。
「・・・デートは?・・」
「あー、ナナ、何か用が出来たとかって、キャンセル」
漫画から目離さないでゲンが答えた。

カミジョウ ゲン。ボンボン学校の理事の孫。
爺さんはこの辺りの有力者だ。
やたらと親戚の多い家。

そんな家で生まれたゲンは、サバイバルな毎日を送っ
てた。
ゲンのママはゲンを生んで死んでしまったという。
真実かどうかその辺は知らない。
だが、オトナは決まってそう答えたから、そうとしか
言えない。
でも、ゲンはその事をしつこく調べてる時期があった。
なぜ、遺影が無いのかとか、墓は何処だとか。
ゲンの推測では、母親はどっかで生きてて、この家か
ら逃げ出したんだって信じてるみたいだ。

とにかく、生まれた時から、ゲンは一人だった。
イヤ、双子じゃない限り、生まれた時は一人なんだケド。

忙しい父親。
日替わりの家政婦。
伏せがちの祖父。

誰がゲンを守るコトが出来ただろうか?

本当なら、ゲンはヌクヌクと金持ちらしく、世間の
セチガラサやらも知らず、金の価値とかもわかんない
バカに育つ筈だったろう。

ゲンに初めて、死への恐怖を教えたのは、父親だった。

まだ3歳のガキに、覚えろと。
自分を守る術を、覚えさせるため、と、床へ叩きつけた。

もちろん。
ゲンは入院した。
大人の力で、なにもわからないガキがフクロにされた
ワケだから、アタリマエ。
病院がゲンの親父を、警察に通報しなかったのは、爺の
金の力だったらしいけど。
それからも、ゲンの周りじゃ、イロイロあった。
その内訳を知ってるのはオレだけだけど。
血が繋がってる人間の方が敵なんだって笑って言うゲン
を、抱きしめたのはいつだったか。


「ゲン、オマエってナナだけ?」
ゲンはこっち見て笑い出す。
「ラン・・ナナとヤリてえの?別にイイけど。でもナナ
にはオレが知ってるとか言うなよ。一応アイツ、オレと
心中する気で付き合ってるから」
「あんなブスと誰がヤリてーなんて言うかっ勝手に心中
でもなんでもシろよっ」
「ブスって・・・オマエが先に、ナナの事、すげーいい
女がいるって声掛けたんじゃなかったっけ」

ああ、そうですよ。
オレが先に狙ってましたよ。
テメーが持って帰っちまったけどナ。

「誰が!」
「何、ラン、機嫌悪りぃな。女、引っ掛け、行く?」
ゲンが体を起す。
「いい。」
「んだよ・・。この欲求不満オトコ」
ゲンがオレの座ってる椅子を蹴る。

襲ってやろうか。コイツ・・!

「ラン」
ゲンがオレの椅子引き寄せて、体くっつけてくる。
椅子の背ごと、背中から抱きしめられる。
その指が、ソレっぽく動いて、オレは顔を顰めた。
「ゲンっ」
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