番外編

□カネダジュンヤ
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カネダ ジュンヤのネガイ




東京の薄い空色の空に、スッと消えていく蒸気のような、白い吐息のような煙。
小さな排気は、さっきも同じようにあそこから吐き出されていたのだろうか。

手にした小さなビンに詰まった、子犬の骨。
ほとんど骨など残らず焼かれ、ビンが傾く度にコロッと音がした。

「悪い事したな。お前を買ったオレがバカだったよ。ゴメンな」
小さなビンを胸に押し付けるように呟いた。
言葉は空しく風に溶けた。
誰にも聞かれていない言葉は本当にただの一人言でしかないかも知れない。
心からの謝罪も懺悔も自己満足でしかない。
それでも、言わずにはいられない程、そのビンの軽さは手を震わせた。
小さな小さな茶色のチワワだった。
掌に乗せられる程大人しく、庇護欲にかられる小動物。
千葉の祖父母の家に姉が退院してすぐ、両親の目
に隠れて訪れたのは数日前だった。
「ヒナちゃん」
姉は静かに座っていた。
ただ、座っている。
お人形のようにダラリと手足を伸ばしたまま、籐の椅子に座っていた。
長かった髪も切り、手入れの行き届いていた爪も短い。
生きているのか手を伸ばして確かめたくなるような薄い存在。
まるで、姉のコピーでも見ているようだった。
思わず口から出た名前は、姉が変わる前までの呼び方だった。




人が変わるのは突然だ。

オレは、あの日の事を何度も繰り返し再生する。
生きた狂気。
剥き出しの欲望。
誰もが被害者で誰もが加害者だった。
残酷は残酷を生んだ。

ヒナ、あんたはオレを愛したかったのか?
なら、あんたは間違えたんだ。
オレはアレを愛だと受け取れやしなかった。
ただの性欲の押し付けだった。
ムリなセックス。
逆レイプ。
繰り広げられたのは子供部屋で、二段ベッドの下。
オレは13歳、ヒナは18歳だった。
オレの精神も崩壊寸前だった。
だから、逃げたんだ。あんたから。
オレは、違うモノを愛したい。
あんたじゃなく。
もっと温度のあるモノを。

「ひな」
静かに、ヒナの首が動いた。キリキリキリと、カラクリ人形の音でも聞こえてきそうだった。
久しぶりに触れられる程の距離にまで近づいた。
緊張で、声が出なかった。
恐怖が蘇る。
あんたが壊れた日の記憶が記号化してオレの血流を乱す。
何も言葉は出なかった。
ただ、手にしていたキャリーバッグを置いて中から子犬を出す事だけ。
ヒナの目は犬なんか見ちゃいなかった。
ピタっと据えられた瞳は、瞳孔が開いたように大きな黒色で濁っている。

なんでオレなんだろう?
あんたはどうしてオレを選んじまったんだろう?

背筋を汗が伝って、息を飲み込んだ。
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