本編2

□好きだから
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「なあ、ヒマ?」

ボーっとワタヌキを待ってた。

フと隣に立った奴がオレに言ってるってのに気づくのに3秒くらいかかったかも。

駅前の公園入り口。

道はさんだ向こうには肉まんの袋を持ったワタヌキ。

すかさずオレは前を向いたまま返事する。

「忙しいよ」

「うそ〜?じゃなんでこんなとこ座ってんの?オレと飲みに行かない?」

人の良さそうな笑顔に丸いメガネ。

「行かねえよ」

オレより先にドスのきいた低音が答えた。

目の前に立ったワタヌキをそいつがギョっと見上げた。

「あ、アキタの友達の・・・・」

思わず指差してる男の手をワタヌキが叩き落す。

「指さすな!」

何を言う事も許さないオーラがワタヌキから溢れ出る。

「じゃ、また今度な〜」

すっくと立ち、オレににっかり笑ってそいつは超早足で逃げた。

「3年だろ今の・・・」

ワタヌキがオレの隣に座ってオレに袋を渡してくる。

「知らない。暇か聞かれただけだし」

袋の中から肉まんを取り出して、ワタヌキに渡す。

「しょうもねえのがいるからなウチのガッコ。筋肉だけで生きてる奴が多いからな」

「まあね」

ふっかふかの肉まんを二人並んで食べる。うまい。

食べてる途中で、ぼそっとワタヌキが言った。

「誰でもいいなら、ナギに声かけんじゃねえよ」

その意味は、さっきの奴をまた見つけたからだ。

今度はゲームしてる高校生相手。

「暇なんじゃん。3年って。でもオレこんな露骨な男のナンパ初めてだった」

「絶対ついてくなよ・・・」

「ワケないじゃん・・・てか、センパイ、バレたかもよ?あんな顔して威嚇しちゃってさ」

肉まんのゴミをクシャリと潰して、ワタヌキが公園の中のゴミ箱に投げる。

「オレ別に隠してねえもん」

その台詞にはオレ赤くなりかけたけど青くなった。

「オレガオトナニナルマデ待ってクダサイ・・・」

すると、ワタヌキが笑って、いいよって答えた。

それがなんかすごい余裕に見えてちょっと悔しいけどすげえなぁって思った。

ホモって事が恥ずかしいとか恥ずかしくないとか、そんなんじゃなくて。

なんか自分がワタヌキに全部受け入れられてるって感じがして、嬉しくなる。

いつか言えるのかな。

ワタヌキタツトはオレのだよって。


オレ達は寒いからってワタヌキのコートのポケットの中で手を繋いで帰った。
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