本編2

□始まってく
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人間は生きていくのだ。

息を止めない限り 生きていくのだ。

苦しくても。

つらくても。

死にたくても。

  


唇が乾いている。

ペロリと舐めても、すぐ乾く。

そんな繰り返し。

北風の中 バスを待つ。

同じ制服の人間が同じようにそこにいる。

何度もバスの来る方向を見て、体を揺らす。

「いつくんだ。このバス」

「おい、あんま動くな。」

オレの肩に寄りかかり、左足に体重を掛ける男がオレを強く抱き寄せた。

「・・・・」

ワタヌキの右足はローファーの踵を踏みつぶし。

裸の踵を、包帯の間からのぞかせていた。

あの。

クリスマスの雪。

ワタヌキは再びオレを自転車の後ろに乗せて走った。

駅までもうそんなに距離なんかなかったのに、ワタヌキはアキタ先輩の登場に
かなり焦ったらしく、慌ててオレを引っ張って自転車を走らせた。

そして、オレの第一歩目。

自転車を降りたオレは誰かが踏みつぶした跡で、まんまと滑った。

そのオレの腕を。

ワタヌキの反射神経がいいという事をこの時ばかりは恨んだ。

自転車に股がったままのワタヌキが、とっさにオレに腕を伸ばした。

斜めになった自転車は見事に雪で滑り、ワタヌキの体勢を狂わせた。

それでも、オレの腕を離さなかったワタヌキは、一瞬、イヤな顔をしただけで、
オレを立たせると再び自転車へ股がった。

「せんぱい」

少し振り返るワタヌキ。

顔の半分は荒い毛糸のマフラーで隠れている。

鋭利な目がオレを見た。

「オナニーすんなよ」

素でした。

素で言って、ワタヌキは去って行っきました。
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