本編2

□迷い
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カラフルなパッケージにブランドのロゴ。
その箱を持っては置き、置いては持ち上げ。

オレ(ワタヌキタツト)は腕を組んで、ソレを睨んだ。

最後の荷物の選別。
広げたドラムバッグの口。
明日から夏合宿が始まる。


悩む・・・。
オレは一度ナギに怒られてる。
それは先月のトレセン合宿の時の事だ。

別にオレはそんなに悪い事だと思わなかった。
だから簡単に。
「なぁ、オレと席替わって」
声を掛けた相手は、びっくりして。
「ど、どうぞ」
ってどもった。
集合場所から乗り込んだバス。
ナギの隣には既にどっかのヤローが座っていた。
ま、座席表がそうなってたからだ。



「センパイ・・」
「眠い」
オレはナギの首筋に顔を寄せてナギの匂いを嗅ぎな
がら、一眠りするつもりだった。
車の揺れも心地いい。
だんだん意識が落ちていきそうになった時、ナギが
溜息をついた。
「ワタヌキタツトのくせに・・・」

『ワタヌキタツトのくせに・・』?

「なんだよ」
目を開けると、バチっとナギと目が合った。
「お、起きてた・・?」
「オレがなんだって?」
「・・・席」
「席?」
オレはまた目を閉じた。
それにホッとしたのかナギの肩から力が抜ける。
「席位い、離れたって・・・いいんじゃねーの・・?
あの人、びっくりしてたし・・。どうよソレ」
答えないオレにナギがもう一度言った。
「ワタヌキタツトとして、どうよソレ」
だんだんとナギの言わんとしてる事がわかってきた。
「オレだから、いーんだよ」
「・・・ワタヌキタツトってこんなヤツって思った
だろーなぁ・・」
「・・・・」
「・・・ホモって思われたかもなぁ・・」
「うるせぇな」
呟くとナギが黙り込んだ。
それからオレはまたナギの肩に顔を埋めて、オレは
ウトウトと眠りに落ちた。
が。
到着と同時に目が覚めたオレを待っていたのは無言
のナギだ。
「あ・・?着いた・・?ナギ?」
ナギはサッサと足元の荷物を持つと、ゾロゾロとバ
スを降りる波に乗る。
「・・・・・」

お、おこってる・・・な、アレ。


その後は話し掛けるタイミングもクソも無い。
バラバラに集められて、それぞれの練習が開始され、
オレとナギは視線も合わせられないくらい離れてい
た。

グラウンドを走りながら、いったいいつになったら
ナギと話が出来るのか考えていた。
そのせいで、飛んでくるパスにも反応が遅れる。

しまった・・・。
いくらでも追いつけるチャンス球だったのに!

パスボールは勢いを失くして、出てきたキーパーに
キャッチされてしまった。

やべ・・っ

だが、それを顔に出す程オレは善人じゃない。
知らん顔してると、背後で中坊が怒鳴り散らされて
いた。

・・・・わりぃ・・!・・集中、集中。

だが、目の端にナギの姿が見え隠れするとぐずってる
中盤を通り越し、視線はどうしてもナギに集中してし
まう。

ナギが熱心にコーチらしきオッサンに話し掛けられて
いた。
たぶん蹴り方の事だろう。
ナギは一度膝を怪我してから、少し妙なクセがついて
いる。それでもキックの精度はかなりいい。
ソレを直す必要はオレはもう無いと思ってる。
だが、初めて見るコーチはそうは思わないんだろう。
舌打ちが出る。
オレが行ってこようか。

と、睨んでる方向から黒い影が視界に入った。
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