本編

□要するに暇なカネダ(鬼畜注意)
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「カネダさん」
その時、モリヤ ナギに呼ばれたオレが見たモノは、ゾっとオレの背中を這った。


イカレテル。


オレにそう思わせる程の殺意に満ちた目だった。
疑問を投げかける暇も無いうちに食い殺される。
そんな、読むことのできないケモノじみた鋭い眼光。
そこまで、どうして貪欲になれるのか。
アイツはモリヤの体から数センチ離れた場所から、モリヤをゆっくり締め付けるように存在していた。
「よ、風邪、治ったか?」
オレは視線を落として、缶コーヒーのプルを引いた。
「ゼンゼン。鼻が詰まってて、めたくた苦しいんデスヨ」
モリヤは絡み付いてくるワタヌキの手を払いながら答えた。
しかも、かなり乱暴に。肘で距離を取ろうとしたり、最後にはワタヌキの脛(スネ)を踵で、蹴り払う。
恐ろしい事、この上無い。
「イッ!・・テメ!」
ワタヌキが両手で足を押さえて座り込んだ。
だが、目は変わらず、モリヤから離れる事は無い。
「なんで、あんたはそんなワガママなんだよ」
たぶん、モリヤはオレの前でいちゃつくのがイヤなんだろう。
たぶんワタヌキの方はワザとやってるんだろうけど。

恐ろしい猛獣と猛獣使い。

オレがいるのも忘れたように、二人が掴み合いを始める。
いつ喉を食いちぎられるかも知れない猛獣相手に、猛獣使いは首をさらす。
獰猛な唸り声さえ、恐れず猛獣使いは笑って手を伸ばす。
そんな絵が浮かんだ。
オレは次元の違いに呆れて、空を見上げながら、コーヒーを飲み込む。
一服つきにきたハズが、とんでもないモノに遭遇してしまった。
よく、こんなコワイ男相手に、平気で立ち向かえるよ。
鈍感なのか。コワイもの知らずなのか。ソンケー。

今日の屋上はカラッとした風が吹いていた。
空の上の上まで透けて見えそうなくらい、透明で、隣でいちゃつくアホ共がいなければ、静かに空でも見ながら昼寝するつもりだった。

缶がカラになって、視線を振ると、猛獣が、目配せした。
「じゃ、オレはこれで」
「え、待って、カネダさん」
思わず、振り返ると、笑ってない目でモリヤが、笑いかける。
「もう、もうちょっといて下さいっ」

なるほど。
オレがいる間はワタヌキも無茶しないと踏んでの抵抗だったってワケか。
猛獣使いは、猛獣の怖さは重々承知していたらしい。
面白い。
「あ、電話だ。わりぃなモリヤ」
オレは鳴ってもいない携帯を開くと、それを耳に当てて、その場を後にした。
だいたいにおいて、オレにはモリヤみたいにアカルイ光を出すヤツは守備範囲外だったワケだが、こうも弱々しい態度を見せられちゃイジメたくもなる。
この後、モリヤがどんな目にあうのかを想像して、オレは噴出した。
あ〜楽しい。こんな楽しさもアリだろう。

階段を降りていく途中。
「よお」
「カネダ先輩。サボリですか?」
ツヅキ タカヒサ。
銀のフレームの涼しげなメガネが反射して目玉が見えない。
「いや。これから授業出るよ。屋上?」
「はい。さっきタバコ置いてきちゃったみたいで。飛ばされてないといいんですけど」

オレが見るとこ、コイツも見所ありそうなんだよな。サドの。
オレはそこで思いつく。
確か、ツヅキはモリヤと同中出身だ。
ガッツガツヤられてるモリヤを見たら、コイツは、どう思うだろう?
レイプかと思って、あの猛獣に食って掛かるだろうか?
それとも、逆にモリヤに恋しちゃったり?
素質ありそうなんだよな・・・。

「何、笑ってんですか?」
「ん。オマエさ、今日部活出るか?」
オレは階段の壁に寄りかかって、ツヅキの目を見つめた。
「出ますよ。センパイも、もう生徒会とか理由つけて休むのやめた方がいいッスよ。3年生にバレてますよ絶対」
「ハハ。いいよ別に。オレはたまたま空手が強いだけで、それがイノチってワケじゃねーし、あの先輩達みたいにな」
「・・・・もしかして、もう、話合いとか、ついてたりするんスか?」
半笑いのツヅキのメガネが光る。
「待ち伏せしてたから、肋骨にヒビ入れてやったよ。一人一本ずつな」
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