本編

□写真事件
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ワタヌキタツトの受難。



「ワタヌキ〜、これ、オマエだろ」

必死にリーダーの訳を写している、借りたノートの上に、バサリと広げられる雑誌。
「んだよ、見えねーだろっ」
あと、5分で3ページ写す。今日当てられる事は番号順で、わかっている。
「ちょっと、見てみーよ!ホラ、オマエだろ」
髪をオレンジに染めた橋田(級友)が、指を差す。3cm四方の顔写真の中の一枚。
「あー?」
テカテカの薄っぺらい紙の上に、憮然と眉間にシワを寄せて、睨みつける顔がある。
「あ〜?知らねーぞ、んなもん」
ソレをシッシと払って、複写を再開する。
「隠し撮りにしちゃ、カメラ目線だな」
それをアキタが覗き込む。
「テメーの陰謀じゃねーだろうな?」
「えー、何なに?・・・”ワタシの彼を紹介シマス”・・・」
アキタの棒読み。
途端に、ガバっと顔を上げ、写真の下のコメントに目を走らせた。
投稿者の名前は、アキラ。

んだよっ違うじゃねーか!一瞬、ナギかと・・・。
いや、アイツがそんな事やるわけねーか・・。
だいたい、アイツがオレの写真なんて持ってるわけねーし、写メだって撮った事・・・。

そういや、オレも、アイツの写真持ってねーや・・。

「アキラだってよ、オマエの彼女〜v」
アキタがニヤニヤ笑いながら読み上げた。
「”ワタシの彼は超ウマイサッカー選手です。”超ウマイときたか(笑)”毎日一緒にいても飽きない実はカワイイ奴です”」
「カワイイ奴!?奴!?」
堪えきれなくなって奴らは一斉に吹き出した。
「ワタヌキ、今度ちゃんとアキラちゃん紹介しろよー」
満面の笑みでアキタが背中に抱きついてくる。
「もう時間ねーからどけよテメーら!頼むから、写させてくれ!」
それでもやめないおんぶお化けにオレは鉄拳制裁を入れた。










アキラが誰かなんてどうでもいい。
だが、こんな風に勝手にヒトの写真を持ってるって事にむかついた。
テメー、それ持っててどうする気だよ。
魔除けにでも使う気か?
何かあった時に吹いてまわる気か?
ただ持ってるだけで何もしねーわけがねぇ。
なぜならメモリの無駄だからだ。
ナギの写真ならいくらでも欲しいけど。

そこで。

オレは、現国の時間を有意義に使い、初めて自分のケータイの写メの機能を理解した。
シャッタースピードが遅いのが難だ。
あと、編集のフレームとかって絶対いらねーと思う。

「ちーす。綿貫先輩、いますか〜?」
一日一回、北村は、この教室へ顔を出す。
それに絶対ナギは着いて来ない。
「ヨォ。オマエ、次何?」
「え、次ですか?生物ですけど・・」
「その次は?」
「数学」
「移動(教室)無し?」
「今日は、無いっすね」
「あ、そ」
なんだよ、じゃぁ撮る暇ねーよ。
・・・まさか、1年の廊下で張るわけにもいかねーしな・・・。
「先輩、実は、先輩の事紹介してくれって頼まれてんですよ。
一年のコなんスけど。あ、先輩って彼女いませんよね?」
「彼女・・・。いるって言えばいる。けど、今すぐなら見に行ってもいいぞ」
「えーーーー!!先輩、彼女いたんスか!?どこにいるんスか?」
「違うガッコ。とりあえず、そのコ見に行くぞ」
「え、マジで?・・先輩って軽かったんスね意外と・・」
「バーカ、見るだけだよ、見るだけ。廊下から見るだけでいいから」
「そうスか。ま、会わせろ言われてるから平気だと思いますけど・・」
これで、一年の廊下へ行く口実ができた。
オレは引き気味の北村の背中をこづきながら階段を急ぐ。
一つ上の階に上がるだけで匂いすら違く感じるから不思議だ。
ナギは1-F。
オレはポケットの中からケータイを出す。
カメラを呼び出し、歩調を緩めた。
1-Fの教室の入り口の前で、そっと中を覗く。
「何してんの、アンタ」
背後から聞き覚えのありすぎるタメ口。
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