本編

□練習風景
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関東大会が近くなり、レギュラーの練習メニューは試合形式のものばかりになった。
二年(補欠)対レギュラー。
ゴンゾーさん(監督)は選手を煽るために、下克上を押している。
絶対有り得ないのに、一年にだってチャンスあるからな。
なんて言う。

アホらし。
そこまでうぬぼれちゃいねーぞ。

初めは二年対レギュラーでやった試合も、次は、混合紅白戦。
二・三年がベンチへ戻って来て、ビブスを交換する。
オレ達一年はタオルとポカリを廻したり、スコアをつける。
そこで、ゴンゾーさんがオレの名前を呼んだ。
一瞬、オレはワタヌキを見つめ、アイツもオレを見た。
「モリヤ、お前、あっちで旗。」

なんだよ!審判かよっ

オレのがっかりな顔を見てワタヌキが噴出してた。
オレは一度、朝練をさぼってから、ゴンゾーさんに名前を覚えられて、何かあると呼びつけられるようになってしまっている。

試合は25分ハーフ。
ピッチに陣を広げると、選手は笛を待った。
オレは赤側のラインに並んで、ワタヌキを見てた。
サッカー程柔軟性のいるスポーツは無いんじゃないだろうか。
どんなに練習を重ねたって、試合は同じように運ばれる事は無い。
右から上げようが、左を使おうが、相手の11人次第で、何もかもが変わってしまう。
練習と同じ戦術が試合で使えるかと言ったら、使えないだろう。

つまりは感だ。
感を養う。
世界を見る。
状況を把握する。
一瞬の判断力。
サッカーは球をキープするだけじゃ勝てない。

ワタヌキのいる白組がゴール前に駆け込んでくる。目の前でワタヌキが舌打ちした。
球はゴールラインを割ってコーナーから。
すると、ワタヌキがオレの方へ走ってくる。
オレは、足元のポカリを取って、差し出してやった。
ワタヌキは何も言わず受け取って、口をつける。
向こうでは、球拾いの一年がコーナーに、拾った球をセットしている。
それに誰も近づかず、ワタヌキが蹴るのか、皆がこっちを見て待っているようだった。
「好きか?」
ポカリを受け取ろうと手を伸ばして、聞かれたセリフに顔を上げる。
「え、ポカリ?」
「バカだろ(お前)」

うわ〜怖い、マジツッコミ。

ポカリを受け取っても、ワタヌキは袖で口元を拭ってまだそこにいる。
「皆さんお待ちのようデスガ」
「オレの事、好きだろ?」
!!やばい、一瞬で耳まで赤くなった気がする。
「・・好きだよ」
答えないとここにずっといられそうで、だけど目を見ないで答えた。

ああ〜恥ずかしいっ皆がこっち見てるっ聞こえてないと思うけど。

満足したのか、ワタヌキは頷きもしないで、走って行く。
アイツ最近、オレにこういう意地悪して楽しんでいる気がする。
試合再開。
ワタヌキのコーナーキックは誰にも触られずに、ダイレクトにゴールへ突き刺さった。

ヨシ!!

白が先制。
選手がゆっくり走りながら元のポジションへ戻っていく。
その中で、オレの方へアキタさんが走って来た。
「モリヤ〜オマエ露骨にガッツポーズ取るな、後でファックの刑〜」
オレの前でスピードを落とし、怖い事を淡々と言って通り過ぎていく。
「ファッッ!?」
叫びそうになって自分で口を塞いだ。
だがそのすぐ背後にはワタヌキ。
「聞こえてんだよ、テメ。バックから刈るぞマジで」
「それ一発レッドだから。じゃ、お前(ファック刑)執行人に決定。オレ裁くヒト。お前ヤるヒトね」
二人はクスクスと笑いながら走り去って行く。

・・・・絶対、カラカワレテイル。
オレで遊んでるだけなんだよ。このヒト達は!

もう一度言っておこう。
もうすぐ関東大会。
部の雰囲気は緊張気味。

あの二人だけを除いて。

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