本編

□カタキ打ち
1ページ/3ページ



「ちょっと待ってて」
って、待つわけが無かったんだよ。このカタが。
いや、オレも廊下じゃなくって玄関とかで待たせとけば良かったのか?
全ては結局仮想の元の推察でしかなかった。
「ワーッ開けるな!!」
押し切られている。完全に押し切られている。
「へー」
すごくすごく見られている。
とにかく見られたくない物を鷲づかみにしてベッドの中へ突っ込む。
とりあえずは、これでいい。
「泊まり無しだからな」
「・・・・・」
にさっきから無言なんだよな。それがまた怖い。
「あっちの部屋は?」
「あっちは妹」
「妹!・・・お前と似てるか?」
似てる・・・って言ったら、オレから乗り換える気だろうか・・。
それなら言っておいた方がいいか。少しは似てるだろうし・・。
「・・・・」
「・・・・・」
「・・・・」
別に、似てても襲わねーよ」
!!!
ニテテモオソワネーヨニテテモオソワネーヨニテテモオソワネーヨ
ニテテモ・・・じゃ、オレの事は襲う気なのか!?
部屋の入り口ですっかりオレ達は立ち尽くしていた。
「・・・ちょっと、膝、見せてみ?」
「え、膝?」
「さっき痛いって言ってたろ。ま、歩けるんだから平気だろうけど」
「あー、さっきのは・・・怪我した時の夢見たせいで・・頭がゴッチャになって・・」
「・・・。見せてみろよ。もしか・・・傷見られたくない?」
「ん?傷は・・・そんな残って無い。後ろから踏まれた感じ」
「えげつねーな〜」
「ゴール前だったし」
「どこの奴だよ」
「市外のトコだよ。今どうしてんのか知らん。一回電話で話したけど」
でも聞いた噂じゃ、アンタの方がえげつないファール多いって聞いたけど。
そして、やはり話を聞かないこのオトコは、勝手にオレの制服のズボンを捲り上げた。
オレは諦めてベッドに座る。
足首を持ち上げられて、膝の裏に手を入れられた。
あったかい手。そっと探るように指先で傷に触れてくる。
「マジだ・・スパイクの跡だ。オレも足の甲にあるけど、こんなハッキリじゃない」
「ハハ・・すっげーかっこわりぃ転び方したもん。超恥ずかしかった」
嘘だ。恥ずかしいどころじゃなかった、担架で運ばれて、救急車まで来た。
「じゃ、もし今度そいつと試合する事があったら言えよ。オレがサッカー界に語り継が
れるような転び方させてやる」
どんな転び方だよ。
「コエェ〜」
怖ぇーよ。マジで。なのに、なんか。
涙出た。ポロって。
ヤバイ、何泣いてんだよオレ。こっちのが恥ずかしいだろっ
ワタヌキはびっくりした顔してた。でも、すぐオレの目の前は何にも見えなくなった。
ワタヌキの胸に抱きしめられたから。
頭を撫でられて、背中を摩られて、すげー気持ち良かった。
誰かに抱きしめられるってあったかくて優しくて気持ちがいいって知った。
そして、オレは不覚にも、部活の疲れと、このオトコへの緊張からきた疲れのせいで、
あっという間に眠りこけてしまった。
横たえられる時、少し目を開けたが、また髪を梳かれて、目を閉じてしまった。
「あ、オレ、今日友達んち泊まる。ん。」
聞こえた。確かに、聞こえた。
低く掠れたアイツの声。
シングルのベッドが軋む。高めの体温を感じてオレは手を伸ばした。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ