本編

□イヤな夢
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サッカーは格闘技だ。
楽しく試合が出来たのは小学生の時だけだ。
もしボールがゴール前に渡れば、審判が見ていようが堂々と反則する。
蹴る。ド突く。引っ張る。引っ掛ける。ぶっ倒す。ハンドする。
審判が見ていない時は常に掴み合いだ。
フィールドにいるのはサッカー小僧なんかじゃない。
キックボクサーだ。
今でも鮮烈に記憶に残る。
シュートを打つ直前だった。
最終ラインを抜けてキーパーもフェイントでかわし、目の前には、ガラ空きのゴール。
冷静に、蹴り込むだけ。
振り上げた左足。その瞬間、右足に激痛が走った。
次の一歩も支えられず、勢い良く体が地面を転がった。
後ろからのファール。
一発レッド。
だけど、いいよ。お前は次の試合出れないだけだ。
オレは、怪我して、もしかしたら一週間、二週間?球にも触れない。
ああ、膝が痛い。目を開けて自分の足を見るのが恐かった。
血だらけ。
血だらけの足。

「モリヤ。起きろ」
電車の轟音と一定のリズムに乗って体が揺れる。
いつの間にかうとうととして、・・イヤな夢を見た。
「膝・・イテェ・・」
ゴシゴシと右手で摩ってみる。大丈夫だった。痛みは無い。
「膝!?大丈夫か?」
「うん・・・。痛くない」
「どっちなんだよ?」
「平気みたい・・。アレ?次何処?」
「新城」
聞くまでも無く、ドア上の電光掲示板にシンジョウと出ている。
思わず、隣のオトコを見つめた。
電車の席って密接すぎる。
たぶんオレが眠ったせいで(イヤ、起こしゃいいんだよ、このヒト)降りるに
降りられなかったんだろう。
「お前んち・・・行ってもいい?」
ウワッそれが狙いか!?
『シンジョウ。シンジョウです。お忘れ物にお気をつけ下さい』
ご丁寧にドウモ。
そして、このオトコはやはりオレの返事すら待たず、(イヤ、返事したってたぶん
聞かないんだろうけど)さっさと立ち上がった。
ああ、オレ、パジャマ、ベッドに投げたまんまだ。見られたくねーーーーっ
「あ、待った。待った。家に電話してみる。飯食えるか聞かないと」
「あー?オレは別にいいぞ・・。あ、なら泊まってっていいか?」
「無理」
「・・・」
電車が最後の最後に、目一杯ブレーキを掛けて止まる。
途端に、ふらついて、ワタヌキの胸に手を付いた。
思わず、カっとなる。
「無理。無理だからな」
「・・・・」


電車を降りて、オレ達はラーメン屋に入った。
電話をした家には誰もいなかった。

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