未来ノート

□一つに繋がる物語B
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「来年の5月?・・ふーん。」
親友からの電話に、やれやれ、と相づちを打ちながら、オレはiPadの画面を開いて来年の5月のカレンダーを確認する。
土日はたぶん試合があるからパス。
平日の大安の日を探すが、まず水曜はアウト。
これも試合がある時がある。
金曜?次の日二日酔いで走れる訳ねえだろ。じゃあ、同じ理由で、火曜もパス。
消去法で、残ったのは月曜か木曜ーー。
月曜だな。
これなら社会人の皆さまも土日月って3連休取れていいだろ。
まあ次の日の朝、徹夜明けの出勤ってのが申し訳ないけど。
「で、お前のスケジュールは?」
『何があっても、そこだけは空ける』
「よし。わかった。来年5月の25日、月曜、大安だ。いいか?」
『ああ。頼む。内々で済ますつもりだけど・・”そういう”の考慮してくれる式場があったら教えてくれ』
いつになく真剣な親友の声に、また一つ先を超されていく実感がある。
冗談でもシャレでも無い。
『ああ。調べてやるよ。日本全国、津々浦々』
「あのな、秘境求めてんじゃねえんだからな・・」
5年の交際を経て、ついに結婚を決めた親友の余裕を見せつけられた気がして、テンションが下がり掛けたオレは軽口を聞いた。
「で、どこでプロポーズしたって?」
本当は、とある記者からのリークで、その答えを知っていたが、意地悪く本人に聞いてみる。
暫し間を置いて、言いにくそうに、『・・・トイレ』と、ボソリと呟く声に、オレは噴き出した。
腹を抱えて、大笑いしたいのを堪え、声を震わせて親友を称えた。
「サイテーの男だな、お前。オレだったら全然嬉しくないぞ。そのプロポーズ」
『ああ、オレの人生で、最高最悪最大の汚点だ。後で、ちゃんとやり直したけどな・・』
「一生の思い出だな。スピーチで言ってもいいか?」
『死んでもいいならな』
「どこのマフィアだお前は」
『大人になったんだよ。オレだけの話ならいいが、ナギの回りに影響するからな・・。たぶん、風当たり強くなるだろ。いらないバッシング受けるかも知んないし、なんかしらの嫉妬とかもあるかも知んない』
「捏造もな」
『でもな。オレはナギと一緒になりたい。それだけだ』
一瞬、からかう言葉が出て来なかった。
自分の胸に、その言葉が響いて、トクトクと自分の心臓の音が早くなる。
実際、結婚式なんて形に過ぎない。
森谷の両親を口説き落として、泣き落として、なんとか森谷を自分の養子にして、同じ姓にして、本名は名乗らずに森谷のままで、そっと二人だけ、大事な書類の上だけ同じ名字で書けばいい。誰に宣言する必要もない。
だから。
結婚した森谷が誰かに詰られ、蔑まされるかも知れないが、結婚するためには、そんな事は気にしない。
いや、そんな事を気にしていたら、今までだって、突然の帰国や押し掛けなんかしなかっただろう。
だから。
守るしかないんだ。
自分が力をつけて、誰にも文句言わせないくらいに富と権力をつけて、大事な者を守るしか無い。
それを・・・
本気でヤルから、こいつは恐いんだ。
「で、森谷に愛想尽かされたらどうすんだ?」
『あいつが・・引退するって言ってくれりゃ・・どんだけ楽か・・』
そう苦笑する声で、こいつワザと森谷を追詰める気か?と、人の恋人と言えど可愛い後輩の行く末に苛立ちを覚えた。
「そんなタマじゃねえよ。つまんねえ嫉妬とか噂とかで、潰れるような奴じゃねえ。つーか、そんなつまんねえ事で、オレが潰させねえ」
ついムキになって言って、『しまった・・』と思った。
『・・悪いな。そっち居れない間、お前に世話掛けるけど、ナギの事、頼むな。気強いけど・・よく泣くし・・ってオレが言ったって言うなよ?』
ーーーたく、体よく押し付けられてる。
「ハイハイ。全く、早く一緒に住めよな。なんのために結婚すんだよ」
『それが出来りゃ苦労しねえよ。出来ないから、籍だけでも入れたいんだ。知らないとこで、アイツが口説かれたり襲われたりしないように、指輪させるために』
指輪くらい、噓でも結婚したって言って、すればいいのに・・
そう思わないでも無いが、そこまで世間に噓を吐いたり誤魔化したりして生きていくのも、なんとも生き辛い人生だ・・と、不憫になる。
噓ばっか言わせる人生なんて、楽しくないよな。
それを一つでも減らせるように、こいつは頑張るんだろうな・・。
そう思って、頭の中で、自分の恋人の顔を思い浮かべた。
どこか頼り無気な雰囲気は相変わらずで、世の中を舐めてるというか、グレてるというか、腐ってる。
が、体力こそオレの方が強いが、センスとテクニックはトップレベル。所属チームは優勝争いに食い込む位置にいる訳で、そりゃ年俸もオレよりいい。
あの年俸を超せない限り、オレにプロポーズする資格 なんかあるわきゃ無い。と、思う。
一体どれだけ、毎日頑張りゃ追いつけるのか、そう考えると溜め息が零れた。
呆れる程先の長い話だと思っていたのに、気づけば、そのゴール前に自分の親友が立っていた。

「綿貫、結婚、おめでとう」

オレの台詞に、電話の向こうの親友は、グッと言葉に詰まった。
予想だにしないアイツの反応に、オレは笑ったら悪いと思いながらも「え、ちょ、そういうお前、マジキモイから・・」と、噴き出した後、なんとなく赤面してしまった。
その後、綿貫と何と言って電話を切ったのか覚えていない。
とにかく。
式場探しだ。
他人事だからかワクワクしながら検索を開始すると、携帯にメールの着信が表示される。
今、電話を切った相手からだ。
『日本でいいとこ無かったら、スペインでもいいぞ』
その一言に、
「じゃ、スペインでいいだろが!」と、夜中に大声でツッコんだのは言うまでもない。
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