番外編

□イズミサワケイタの傷
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あー、面白くねー。
放課後までブラブラするか。
ゲーセン行って、本屋行って、スポーツショップ行って。

ガッコの最寄駅の改札を出た時だった。
「ねぇ」
オンナの声。
オレに掛けられた声とは思わず、通り過ぎると、声はしつこく追いかけて来た。
「ねぇ、ねぇ」
面倒くせぇからシカトして歩き続けると、
「ねぇってば!」
最後には制服の肘を引かれた。
ガクッと肩からエナメルバッグが落ちて、オレはソイツを睨みつけた。
「そんな睨まないでよ。ねぇ、ヒマなんでしょ?アタシ
もヒマなんだ。遊ばない?」
どう見ても、カツラ(金髪の)。
コスプレみたいな裾の短い制服。中に着ているポロシャ
ツからは臍が見えてる。
「暇じゃねーから」
今の気分で知らないヤツとつるむ気になんてなれなかった。
しかもオンナ。

冗談じゃねーよ。
なんでオレが相手してやんなきゃなんねーんだよ。
オマエらワガママすぎて付き合ってらんねーんだよ。

並んで歩こうとするオンナを引き離すように歩幅を広げる。
「なんか、わかるんだもん。アタシも、皆死ねって気持
ちだから」
思わず、振り返ってしまう。
ソイツはオレの顔を見て、嬉しそうに笑った。
「ちょっとでいいから一緒にいてよ」
スルっと腕を組んでくる。
柔らかな体が密着してきて、思わず体が強張った。

こんな、バカそうなオンナでもいい匂いがする。
傷舐めあうみたいで趣味じゃねーけど、こんなのもアリか。

「オマエ、本当に高校生?」
「マジ失礼だよ、ソレ」
カラリとした笑いが口から零れた。サイアクな底辺からコンマ何cmか浮上した気分になれた、その時。
「センパイ、何してんの?」
胸を刺すあの声がオレの心臓を止める。
「なんで・・・」
目の前に歩いて来たのはサッカー部の後輩アキタセイジ。

オレを犯したもう一人のオトコ。
いや、輪わしたオトコか?

「今日、ワタヌキが来ないからオレもサボり、センパイは?」
アキタはオレと話しているのに、視線はオンナに向けたままイヤな笑みを浮かべて、オレに答えさせる暇も与えずに続けた。
「まさか、こんなブス相手にハメる気じゃねーよな?つーか高校生じゃねーだろ、オマエ」
「ヒド!!もういいよ、バイバイ!」
スルリと腕が抜けて、ソイツはまた駅の中へ入って行く。
「センパイ。行こ」
くるりと向けられた背中。
付いていく事に迷いはなかった。
少しだけ、体温が上がる。
それは、たった一人で、オレの前にいるアキタのせいだ。

着いて、入ったのはフロントにカーテンの掛かったラブホ。
小さな窓から鍵が滑り出てくる。
鍵を取ったアキタがオレの手を握ってくる。
たぶん、オレが逃げないように手を繋いでいるんだろう。
そんな事しなくたってオレは逃げたりしないのに。

「アキタ」
呼ぶと、アキタは答えずに笑みを浮かべる。
これから。
セックスをする。
たぶん。いや、絶対。
ここはそのための場所だ。
そう思うと急に緊張してくる。
オレ達は二人でシた事がない。


エレベーターに乗り、5階で降りる。
足音を吸収しそうな絨毯が引かれた廊下の先。
濃紺のドアを開く。
壁と天井一杯に流星系の絵が描かれている。
大きなベッドには真っ黒なシーツがかけられていた。
アキタは、上着をソファに放ると、ベッドに浅く座って後ろに手をつく格好でオレを見上げた。

本当に二人きりで?

オレはアキタがいつアイツに連絡を取るのかと、ハラハラしていた。
いや、実は既に、アイツを呼び出した後かも知れない。
きっと後からアイツが来るんだ。
もしかすると、また何か妖しいモノを持ってくるのかも知れない。

「アンタ、ドーテーだろ」
グサリとくる事を前フリも無くアキタは口にする。
ズボシとかそんな問題じゃない。呆れてモノも言えない。
「でなきゃ、あんなタカリ女、シカトするハズだもんな普通。
見る目、なさすぎ。センパイ」

タカリ?

「金なんてねーよ。見る目ねーのは向こうだろ」

じゃ、オレ、もしかして、奴の仲間のとこにでも引っ張られて、ボコにされるとこだったって事?

サイアクの底辺の世界はソコが深い。落ちても落ちてもまだ下が ある。
今オレは地下何階層にいるんだろう。
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