本編

□写真事件
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次の日。
「ワタヌキ〜、いいもんゲットしてきてやったぞ〜」
アキタがケータイを開いて見せてくる。
そこには、学ランのナギの硬い顔。
「ショウメイ写真かよ」
「ブ〜。卒業写真」
「いらねーよ」
オレが欲しいのは普段のナギの顔だ。
そんな何百も印刷された顔じゃない。
「じゃ、5百円でこれ売ってやろうか」
アキタの手が紅いアルバムを持ち上げた。
硬い漢字のタイトル。
「!ナギの?」
「・・・へ〜〜。オマエ、モリヤの事名前で呼ぶようになったんだ」
アキタの目が嬉しそうにネコ化していく。
「もう、百円やるから、向こう行け」
「んな、冷テー事言うなよ。な?オレ達ってカワイイとこあるよな〜・・。そう思わね〜?」
アキタは意味深にニヤケながら、オレの隣へ座るとアルバムを開く。
もう、先に見て知っているアキタはサッと、ナギの映っているページを開いた。
一発で目に入る、学ランで仲間としゃがみ込んで笑うナギの写真。
「ウワ。カワイー・・!!」
ハッとして口を押さえる。
ニンマリとしたアキタがオレの肩を宥めるように叩くと、席を立った。

なんか言われるのもムカつくが、こうやって大人な対応をされるのも腹が立つ。

気持ちを抑え、指で捲っっていく。
クラスのページ。文化祭のページ。体育祭のページ。修学旅行のページ。
全体写真。部活のユニフォーム姿の写真。
オレが初めて見る少し前のナギ。
パタンと閉じる。

バカみてぇ。
ショック受けてる。

知らないのは当たり前だって、言い聞かせても。
ショックは隠せなかった。

ナギがオンナと肩を組んで写っていた。

昔のオンナ?
だから、なんだよ?
今のオレとなんも関係ねーだろう?

だけど、頭は今見たモノを簡単には削除してはくれない。
オレは、ケータイを開き、ナギに繋ぐ。
「モシモシ。」
「屋上に来い」
「え」
ブツッ
オレはアルバムを持って階段を上がった。


5月の頭だっていうのに、日差しがもうキツイ。
温暖化はちゃくちゃくと進んでる。
オレはドアの横のかろうじて日陰の灰色の壁に寄りかかって座った。
また、アルバムを開いて見る。
オンナがナギと肩を組み合ってこっちを見て笑っている。
「テメ・・オトスぞ」
言った次の瞬間、ガチャっとドアが開いた。
慌てて、アルバムを背中に隠す。
隠してから、隠す必要が無かった事に気づいたが遅かった。
「アンタなんだよ、さっきの・・・・。センパイ?どしたの?」
ナギがオレの足の間に膝を抱えてしゃがみ込んでくる。

聞く事は一つしかない。
なのに、バカバカしくて声が出ない。
聞いてどうすんだ。
オレだって、別に童貞じゃねー。オンナと付き合った事はある。
それを聞いてどうすんだ?
余計にショック受けないか?
そんな事聞いて、オレってバカみてぇじゃねーか?
狭い。自分が狭すぎる。

「センパイ?・・あ、オレ昨日の事聞いたよ。すげー北村が話デカくしてたけど。いくらアンタでもオンナ相手に『埋める』なんて言わねーつーの。土嚢かよ(笑)逆にウケた。アイツたまに面白れーこと言うと思わない?」
「・・あー、・・」

いや、ま、埋めるゾって言ったんだけど。

「しかし、すごいね。勝手に写真投稿するなんて、・・金でも貰えるのかね?」

んなわけねーだろ。エロ本じゃねーんだから。

「・・・センパイ。マジ変。何?オレなんかした?」
オレは大きく息を吸って、吐き出した。
「ナギ。写真撮っていい?」
「写真?・・・裸?」
「アホか」
「アホかはそっちだろ。何だよ。すげー難しそうな顔してるから何かと
思えば・・勝手に撮ればいいだろ、んなの」
ナギは言いながらどんどん目元を赤くしていく。
「ナギ」
そっと唇を寄せると、ナギも目を閉じた。

あ、この顔・・・。

オレはサっとケータイを開く。
その気配に、ナギの目が瞬いた。
「センパイ!!マジでキレるぞ!んなもん撮りやがったら!」
「裸でもいいっつたのは誰だよ?」
「いいなんて言ってねー!!ヘンタイ!」
「撮ってやる。絶対撮ってやる」
「ヤメロ!!」
オレはケータイを持ったままでナギの両手を拘束した。
楽勝。
「放せ!変態!大声出すぞ・・」
オレはケータイの画面からナギを見つめた。
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