番外編

□Return★Life
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『泣くな。人が見るだろ。誰かに気づかれて慰められるとか許さねえからな・・』
なんとなく本気で怒ってる雰囲気すぎて、オレは慌てて顔を上げた。
「すごい帰りたい。アキタんとこ帰りたい」
『オレだって・・ずっとだよ。ずっとずっとずっと・・。先輩が思ってる千倍、会いたいって思ってる』
思わず噴き出して笑ってしまう。
「千倍って!」
アキタも一緒になって笑って、ホッと息をついた。
『ケイタ、好きだ。大好きだ』
「アキタ・・オレも。オレもだよ」
『今は、コレしか無理だけど・・待ってて』
「うん・・待ってる。ちょっと・・寂しいけど・・。結構、かなり。でも・・待つよ?ちゃんと待ってる」
『うん』
その後は、自分の部屋にオオカワが入り込んでいることを話し、アキタの近況を聞いたり、ワタヌキのアホっぷりを聞いたりして時間を過ごした。
電話は偉大だ。
すぐ近くで大好きな人の声が聞けるんだ。

朝が近づいて来て、始発が出る頃、オレはオオカワを部屋から追い出し、やっとベッドへ横になった。
それでも、興奮で眠くなるのに時間が掛かった。
胸が小さく疼くのをあったかく感じながら、朝練までの二時間だけ瞼を閉じた。



グラグラする頭を起こして、なんとか朝練に参加。
あれだけ飲んだ次の日の朝に、しっかり全員が来ていることに、『伊達じゃない』と気づく。
クボもあまり寝れなかった風で、フラフラになりながらも笑顔で手を上げてくる。
思わず笑うと、クボが少し驚いた顔でこっちを見る。
「イズミサワ君の笑顔って、いいね。今まで見たこと無かったけど」
「笑ってなかった?今まで?」
「うん。いつもすごい辛そうな顔してるな〜って思ってた。良かった。元気になったんだ?」
そう言われて、恥ずかしくなってくる。
そっか。
本当に辛かったから、それが全部顔に出ちゃってたんだな。
「イズミサワ、昨日は悪かったな〜。本当は色々話でも聞いてやろうと思ってたのに・・速攻で落ちてたみたいで・・」
オオカワにまで謝られて、なんだか居心地が悪くなる。
「そんな風に思ってたんですか・・。全然気づかなかったですけど」
「悪かったな!いつでも話なら聞いてやるから、言えよ?」
オオカワに頭をぐしゃぐしゃと掻き回されて、目の前が見えなくなる。
「もう〜!ヤメて下さいよっ」
まだ早朝のグラウンドの端でしゃがみ込み、両手を後ろについて空を見上げた。
薄い水色の空が、清々しく広がっている。
「先行くぞ〜」
「お〜」
引き上げて行くチームメイトに手を上げて、オレはそのまま仰向けに寝転んだ。
空の中をゆっくりと雲が動いていくのが見える。
2時間しか寝てない体に、ゆったりと睡魔が訪れていた。
目を瞑ったら、眠ってしまいそうな心地いい気だるさ。
二度三度目を閉じて、吸い込まれるように意識が遠のく。
『先輩』
アキタの声だ。
『先輩』
そっか、もう朝なんだ?ガッコ行く用意しないと・・
朝?いや、オレはもう朝練行って・・
そうだ、今はオレは寮に一人暮らしで・・!
パッと目を開けると、目の前にアキタの顔があった。
「こんなとこで寝るな」
オレのすぐ横に座って、オレを見下ろしていた。
その首に。
「わっ」
オレは両手を伸ばして抱きついて、アキタを目の前に引き寄せて。
「せんぱ」
夢中で、アキタの唇に吸い付く。
まるで子犬がペロペロペロペロとしつこく舐めるみたいに、オレもアキタの唇に無我夢中でむしゃぶりついた。

今逃したら、今度いつキス出来るかわからない!
っていうか夢だったらヤバい!覚めたらヤバい!

「ちょっ!ケイタ!!」
無理矢理、腕を引き剥がされて、オレは泣きたくなる。
「なんで・・なんで・・本物・・?アキタ?マジ?」
泣き出しそうなオレの顔をアキタがやさしく撫でる。
「朝練出て、授業さぼって来た」
「なんだよ〜っもう〜っオレ、もう、また暫くは会えないって覚悟を・・う〜〜っ」
涙が溢れてくる。
「ケイタ・・あんな電話されたら、オレ我慢できねえよ?」
アキタがオレをゆっくり起こして抱き寄せる。
「千倍好きって言ったろ?」
「・・・言ってない〜〜っ」
「えーーーっ」
涙を溢れさせながら、オレはアキタと抱き合って、バカみたいに笑った。

しあわせだ。
今日も。
明日も。
あさっても。






end
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