番外編

□Return★Life
4ページ/5ページ


家を出ることなんか平気だった。
一人暮らしするのに抵抗なんてなかった。
むしろ、それは嬉しいくらいで。
でも。
アキタが居ない。
アキタが待ってろって。
だから?
オレは・・納得出来てないのかも。
ずっとずっと、イラだってる。
何もかも面白くなんかない。
アキタが居なかったら何にも意味がない。

そうだ。
それだけなんだ。

意味なんか無いんだ。この生活に。

気がついて、笑いがこみ上げてくる。
バカじゃん?
オレ、なんのためにここにいるんだろ?
サッカーなんかどうだっていいや。
だって、こんな生活しててオレ、気が狂いそう。
なんのために?
誰のために?
自分のため?
将来のため?

だったら。

オレはこんな毎日いらない。
もう待てない。
オレは1年も待てない。
アキタが居ない毎日なんて毒だ。
ここでの生活は、毒でしかないんだ。

「帰ろ」
呟いていた。
財布と携帯を確認して、オレは石段を降りて道路へ出た。
こんなに決断力がいいのは少し酔ってるせいかも知れなかった。
歩き出して数分、アキタに報告しようと思った。
帰るよって。
きっと喜んでくれる。
携帯の画面が何度か点滅して、すぐに画面が暗くなった。
『ケイタ?』
「アキタ」
『電話、久しぶりじゃん・・』
「うん」
近くで車の音がして、アキタが『外?』って聞いた。
「うん。オレさ」
『先輩。もう寮に帰れよ』
言掛けたオレの言葉にアキタの台詞が被った。
『あぶねえだろ!?夜中に歩いてんじゃねえよ・・!なにやってんだよ!?』
「だってさ・・オレ・・」
アキタのキツい声音に足が止まる。
『とにかく部屋に帰れ。いいか?携帯このままで帰れよ?もし、変なのに絡まれたら大声出せよ!?』
「アキタ!オレ、帰る!」
『わかったから』
「ちがくて・・!オレ、そっち帰る・・」
やっと言えた台詞に、ジワっと涙が溢れそうになった。
一瞬、通話が途切れたのかと思うような静寂。
「アキタ?」
『ケイタ・・』
「オレ、帰る。帰りたい」
『・・・もっと言って』
アキタの呆れたような声に、ホッとした。
「アキタ・・オレ、アキタが居ないとダメで・・なんも・・意味ないこんな生活」
『うん』
「オレね?アキタが1年待ってろって言ったけど、オレ、そっちで待ってちゃダメ・・?」
『先輩、オレね。まいんちまいんち。先輩の写真見てる』
そう言われて嬉しくなったけど、たぶん、エッチしてる時のどぎついヤツだろうなって思った。
『オレも、すげえツライよ。部屋に一人ぼっちだよ。ベッドが広くて、手伸ばしても先輩はいなくて・・』
「アキタ・・オレ、今から帰る」
『・・どうやって?』
「歩いて」
また電話が切れたのかと思うような静寂。
『ふざけんな。寮に帰れ。こっち来たら速攻でタクシーで送り返す』
「なんで!」
『1年くれえ待てねえのかよ』
胸に杭でも打たれたような衝撃だった。
『ガキじゃねえんだから、男が決めた事はキッチリやり通せ。なんのためにアンタはそこに居んだよ』
「わかんない・・」
『わかんねえじゃねえよ。大人んなって、オレと堂々と一緒になるためじゃねえのかよ!?』

自分にはサッカーしか才能が無い。
もしかしたら、それで食っていけるかも知れない。
そう思えた時もあった。
でも、この生活が、最後、アキタに繋がる。
アキタまでの道を辿ってるんだ?オレ。
そんな風に考えてなんかなかった。

「アキタ〜・・・!」
涙が込み上げてきて、片手の袖口で拭う。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ