番外編

□Return★Life
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アキタ〜・・
1年って長いよ。本当に長いよ?
頼むから誰かタイムマシーン作って、オレを1年後に連れてってくんないかな?
一ヶ月でも二ヶ月でも待つからさ。


「イズミサワ」
気軽に自分を呼ぶ声が誰か判別出来るくらいには生活に慣れていた。
肩を叩かれて、横を見ると、ニカニカ顔が近づいてくる。
「オオカワ先輩」
「今日、練習の後ミーティングあるから、残れよ?」
「オレ飲み会だったら」
「大丈夫だって!来いよ!?な!?」
バンバン背中を叩かれて、舌打ちしそうになる。
練習は毎日ある。
朝も夕も、土曜も日曜も。
その土日に飲み会という名のミーティングがあって、体育会系のバカ騒ぎにウンザリしてきていた。
そのムダな時間をチビチビとアルコールに浸かった頭で考える。



もし、アキタに会いに行ってたら、一時間半。
会って、すぐヤって・・2時間。
帰るのにまた一時間半。
全部で少なくても5時間必要だ・・。
飲み会は7時半からで・・。
やっぱ無理だ。
帰って来れねえや。
またアキタに会えない。
もう、こうやって3週間会ってない。


思わず、目の前のグラスを煽って空にすると、すぐに違うグラスが目の前に運ばれてくる。
「イズミサワ君は、お酒強いんだね〜」
同じ1年の久保(クボ)は酒に弱いらしく、全身真っ赤になって目の前のグラスと戦っている。
「飲むなよ」
「だって、飲まないと〜、こんなとこいても楽しくないじゃ〜ん」
一応、酔える質みたいで、ヘロヘロと顔を崩す。
ちょっとかわいい感じの童顔で、大学生にはとても見えない。
「イズミサワ君さ〜、なんで金髪なの〜?ハーフなの〜?」
「あー?そうそう」
「え〜?その返事ってマジなの〜?ウソなの〜?どっちだよ〜」
クボは笑いながら人の肩をグラグラと揺すってくる。
サッカー部の環境は悪くない。
それなりに他人を意識して、それなりに間隔を保っている。
ダラダラと飲み会は続き、終電が終わった頃解散になる。
家に帰れない奴らは当然、学生寮へとなだれ込む結末。
「ちょ、勘弁して下さいよ」
「オレはイズミサワの部屋がいい!お前らはクボの方行け!」
無理矢理オレの部屋に上がり込み、大柄なオオカワが横になろうとする。
6畳一間ユニットバス付き。
「マジで寝るんじゃねえ!!」
後ろから襟を掴んで、ひっぱり起こそうとしても、ビクともしない。
それどころか、抱き枕のように人の布団を引き寄せると、1秒もしないでイビキを掻き出した。
「このヤロ・・!!」
一気に殺意さえ芽生える。
本気で首を締めてやろうかと伸ばしかけた手をなんとか胸に抱えて押え、自分の部屋なのに、ドアの外へ出た。
まだ夜は少し寒い風が吹く。
アルコールの充満した体には少し凍みるくらいで丁度良かった。
クボの部屋からは、まだ明るい声が聞こえていた。
だからって、そっちの部屋になんて行く気になれない。
ただ今は理不尽な寒さに体を浸していたかった。
学生寮のエントランスの石段に座り込み、人通りの無い暗い夜道を眺めていた。


自分は何なんだろう?
誰かと仲良くなりたくなんかなかった。
馴れ合いたくなかった。
なんでこんなに荒んでいるんだろう?
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