番外編

□Return★Life
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「いえ。でも、誰か来るだろって走りました」
「へ〜」
自販機に押し込まれた小銭がチャリンチャリンと音を立てる。
金が落ちていく音ってなんか好きじゃない。
オオカワは自販機で買ったペットボトルを少し飲んで、また話出した。
「ああいう動きはなかなか出来るもんじゃないんだぜ。頭でチャンスだってわかってても、自分がポジション離れるリスクを背負わなきゃいけねえじゃん?誰かにそこ埋めてもらわなきゃだからな。裏取られたらおしまいだろ?」

結局、お説教かよ。

「気をつけます」
言って、踵を返すと、オオカワが慌てて声を出す。
「いや、良かったよ!お前、頑張れよ!」

アメとムチ?
どうでもいい。

「どうも」
とだけ抑揚の無い声で答えた。

荒む。
どうしても、荒んでく。
フと、これが一人になるって事だったんだな〜と実感。

アキタと居た時は。
いつも笑ってられた。
ギスギスする心臓から針を抜くみたいに空を見れた。
そんな空の大きさに感動したり、雲の白さに感動したり、そういうのに気づけるようになった自分自身に震えた。

アキタが好きだ。

そう思うと、自分を覆っている何かの壁が崩れていく。
全身をゴツゴツに包んでた鉄の塊みたいのがスライム状に流れていくような感覚。

シアワセだった。
たった何ヶ月かだったけど、すげえシアワセだった。
それくらい、今アキタが居ないことがツライ。
ホームシック?
いや、オレにはアキタだけが恋しいから『アキタシック』だな。


19歳になって自分が変わったかなんてわからない。
背もそんなに伸びてない。
変わったのは環境で、ここにはアキタが居なくて、知り合いも居なくて(それはどうでもいいけど)、とにかく0(ゼロ)から始まってる。
大学は退屈で、サッカーをするために行ってるのか、卒業するために行ってるのか、この意義を問う毎日。
講義は時々無い時もあって、そういう時はグラウンドの近くの背もたれのないベンチで昼寝する。
丁度木陰で、木の葉の隙間から見える空が恨めしく思えて、目を強く瞑った。

なんで、オレは大学生してて、アキタが居なくても生きてて、サッカーしてて、眠くて、やる気出なくても授業出て・・。
アキタ、オレ間違ってない?
オレの人生ってこんなんだっけ?
どうでも良かったんだけどな。
オレなんかいつ死んだって、いつ居なくなったって、誰も困んない。
そんな人生だった。
でも。
アキタが。
オレを、アキタが好きだって言ってくれた。
『先輩、オレ追いつくから。1年だけ我慢してて?』
アキタがそう言ってオレを送り出した。
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